貸金庫窃盗の原因は三菱UFJ銀行のぬるい体質

警視庁捜査2課は1月14日、顧客の貸金庫から時価約2.6億円相当の金塊を盗んだとして、三菱UFJ銀行元行員の今村由香理容疑者を窃盗容疑で逮捕したという報道です。これに関連して三菱UFJ銀行は1月16日、金品を盗まれた顧客は約70人で被害総額は約14億円に上ると発表しました。今村容疑者が練馬支店と玉川支店に勤務していた2020年4月~24年10月に起きたということです。

この事件は銀行業界に少なからぬショックを与えています。たぶん銀行でこのような事件がおきることを想定していた人はいないと思われます。

三菱UFJ銀行の貸金庫規約を見ると、貸金庫の鍵については次のようになっています。

第5条(鍵、カードの保管)

①貸金庫に付属する鍵正副2個のうち、正鍵は借主が保管し、副鍵は当行立会いのうえ、借主が届出の印章により封印し、当行が保管します。なお、正鍵の複製はできません。

②カード式半自動型貸金庫、カード鍵発行型貸金庫、完全自動型貸金庫の場合は、借主および借主があらかじめ届出た代理人(以下「代理人」)に貸金庫カード(以下「カード」)を発行しますので、借主および代理人が保管してください。また、届出の暗証は他の人に知られないよう管理してください。なお、代理人のカードによる貸金庫の使用についても、この規定を適用します。

今回窃盗に使われたのは、①の銀行保管の封印された鍵ということになります。今村容疑者の供述によると封印された封筒を丁寧に開封し、使用後再封印していたということですから、封印の仕方に問題があったことになります。①は不正が起こりうるシステムであり、今後②に変更になると思われます。

今村被告は盗んだ金庫の内容物につては気付かれないような工作をしていたようですが、今回の事件の問題点は鍵の取扱にあります。普通の銀行なら貸金庫に銀行員1人で入ることはありませんし、鍵の保管者と使用者は分けています(不正防止上の大原則)。従って他の銀行で同じことが行われていたことはないと考えられます。要するに今回の事件は、三菱UFJ銀行の体質に起因して起きた事件と考えられます。どんな体質かというと“ぬるい”体質です。三菱UFJ銀行は2024年3月期末の総資産が約403兆円という日本最大の銀行(ちなみに地方銀行最大手の横浜銀行は約21兆円)ですが、体質は極めて官僚(官庁)的です。三菱グループ企業を顧客に持つため勝手に資産が膨らむのです。だからどぶ板営業とは無縁であり、ガツガツしていません。それは行員の態度に現れています。昭和の時代東大生に人気の就職先ベスト3は大蔵省・日本興業銀行・三菱銀行であり、いまでもそのときの人たちが幹部を占めています。従ってプライドは大変高く、官庁のように入行時の成績(東大優先)で出世が決まる人事システムが今なお行われています。この結果出世を諦めた人も多く、この人たちは高い年収を励みに働いています。対極的なのが三井住友銀行で、採用は東大・京大・阪大・神戸大の国立勢と早大・慶大を均衡させ、入行後の実績で昇進が決まるシステムを徹底しています。その結果、30代以降になると両行行員の実力は歴然としてきます。三菱UFJ銀行の行員は優秀な大学生がそのまま年と取った感じが多いのに対し、三井住友銀行の行員は油断も隙もないやり手が多い感じです。このような三菱UFJ銀行の体質が現れたのが今回の事件であり、三菱UFJ銀行でしか起こり得なかった事件だと思われます。この事件を受けてみずほ銀行は新規の貸金庫契約を停止し、三井住友銀行は銀行保管の鍵の取扱を厳格にする方針を打ち出しましたが、みずほ銀行は過剰反応であり、三井住友銀行は冷静な反応です。ここにメガバンク3行の実力差が良く表れています。