日産はルノーとの統合がベスト

ホンダと日産は12月23日に経営統合交渉入りを発表した際、1月末を目途に経営統合の協議をさらに進めるかどうかを判断するとしていましたが、これが2月中旬にずれ込むと発表しました。

これを聞いた感想は「やっぱりな」という一言に尽きます。その理由は2つあります。1つは、12月23日に統合交渉入りを発表した時点で、1月末までに統合協議を進める材料を出す(日産再建の道筋を付ける)ことは不可能だったことです。日産は9,000人の削減と生産能力の2割の削減を発表していましたが、これを1カ月で具体化するのは無理です。それに第三四半期決算を確認する必要があります(2月13日発表)。2つ目は、日産株式の約36%をルノーが持っており、経営統合交渉入り発表後ルノーの承認を得ていないことが分かったからです。ルノーはこの発表後、「ステークホルダー(利害関係者)として最善の利益になるようにあらゆる選択肢を検討する」とのコメントを発表しており、不満を露にしています。

この2つのうち2つ目のルノーの存在が一番障害になっていると思われます。日本の会社法では合併や営業譲渡など会社の事業にとって重要な決定をする場合、株式の3分の2以上を持つ株主の賛成を得る必要がありますから、約36%の株式を持つルノーが反対したら経営統合はできません。日産としては、ルノー本体の所有割合は17.05%であり、残り18.66%は信託銀行が保有していることから、ルノーには拒否権はないと考えていたのかも知れませんが、信託銀行に信託したのはルノーであり、信託銀行はルノーの指示に従って議決権を行使すると考えておく必要がありました。ところが内田社長以下日産幹部はこう考えず、かつルノーの承認を取らずにホンダとの経営統合交渉入りを決めたように思われます。そもそもルノーが約43%保有していた日産株式の割合を日産が保有するルノー株式の割合と同じ約15%に落とし、その他は信託銀行に移管することに同意したのは、ルノーと日産の関係を子会社の関係から対等なパートナーの関係に移行することを目的とするものでした。この目的からすると日産は、ホンダとの経営統合交渉入りについて事前にルノーの承認を取り付けるのが当然ということになります。どうも日産はこれをやらなかったようです。これは法的にも信義則上もあり得ないことと言えます。この結果ルノーは日産とホンダの統合交渉を苦々しく見守っていると思われます。ルノーとしては、日産が好業績であれば反対するところですが、業績が悪いこととルノー自体の業績も芳しくないことから、面と向かって反対はできないようです。そこでルノーができることは、ルノーが保有する日産株式を高く処分することになります。ルノーは業績悪化に苦しむ日産が高い株価で買い取れないことは分かっていますから、ホンダに話をしたものと思われます。これを受け1月16日ホンダが日産に対しルノーが保有する日産株式の着実な取得を求めていると報道されています。そして1月29日ロイターは、ルノー幹部が今週日産自動車とホンダの経営統合問題に関連して日産側と協議するため日本を訪れた、ルノーが保有する日産株式の価値最大化を求めるのが目的だ、と報道しています。これらを読むと、日産とホンダの経営統合協議を進展させるかどうかの結論が1月末から2月中旬にずれ込んだのは、ルノー保有日産株式を巡る日産とルノーとの調整が付かないことが最大の障害になっていることが伺えます。報道では日産の再建計画が固まらないためとなっていますが、固まったとしてもルノーが統合に賛成していない、または高価での株式買い取りを要求しているとすれば、先に進めません。

今後どうなるかですが、ルノーは株式の時価総額(約1兆6千億円)ベース(約36%は約5,800億円)ではく、純資産(約6兆3千億円)を加味した買い取り(約36%は約2兆3千億円)を要求するものと思われます。これに日産が応じることは到底不可能であり、ホンダが買い取ることもないと考えられます。そうなると考えられることは、日産がルノーと統合することです。これは2019年頃話がありましが、ゴーン逮捕で立ち消えになりました。ゴーン逮捕はこの話を潰すための謀略だった可能性が高いです。この話が成立していれば今頃ルノー・日産は世界3位の自動車グループになっていたと考えられます。この後ルノーと日産は今のような関係になったわけですが、共に上手く行っていません。ルノーは電気自動車重視に大きく舵を切りましたが、欧州でも電気自動車化は進んでおらずHVやPHVが見直されており、ルノーもHV車やPHV車を発売しています。と言うことは日産の車にルノーのHVやPHVシステムを載せれば日産の米国販売での不振の原因を解消する可能性が出てきます。それに日産の2024年米国販売は前年度比2.8%増の約92万台であり、ルノーにとってはいまだ魅力的な販売力と言えます。ゴーン時代のようにルノーが米国販売を差配すれば今より増販となる可能性が高いと言えます(ゴーン時代日産北米販売責任者を勤めて販売台数を大きく伸ばしたムニョス氏は、ゴーン逮捕後韓国ヒョウデに移りヒョンデの販売台数を世界3位まで伸ばし、現在ヒョンデのCEOに就任している)。従ってルノーがあと15%日産株式を買い増し子会社としたあと日産と経営統合するのが一番現実的と言えます。この場合ルノーは日産社長に旧知の日産元専務の関潤氏を招聘する可能性があります。