サラリーマンの34度線

私はテレビの刑事ドラマが好きなのですが、地上波では殆ど見られなくなりました。制作費がかかるため制作しなくなったようです。そこで今ではBSで過去の再放送を見ています。再放送は昔見て内容を覚えているものが多いため、結局ちょっと見て止めるものが多くなります。1月29日にBS朝日で森村誠一の終着駅シリーズ「途中下車する女」の放送があり、幸い見たことが無かったので最後まで見ました。その中で興味ある会話があったので紹介します。

内容を番組の紹介から引用すると

「新宿西署管内のマンションで商社マン・牧島良夫の死体が見つかった。重い物体で後頭部を一撃されたようだが、凶器は見当たらない上、現場は密室状態で犯人の侵入経路もわからない。牛尾らは、被害者の周囲にトラブルがなかったか徹底的に洗い出すため聞き込みを強化したが、牧島の評判はよく、恨みを持つ人物は浮かび上がってこなかった。そんなある日、現場付近で聞き込みしていた牛尾に、初老の男性・古木久俊が声をかけてきた。」

と言うものです。ここで興味を引いたのは、この古木が牛尾刑事に話した内容です。古木は元商社マンで数年前に定年退職し、最近は現役時代に通勤に使っていた電車の通過駅で途中下車し、町を探索することを趣味にしていると言うことでした。数日前自分と同じ職業の商社マンが殺されたという報道を見て、場所が通過駅周辺にあることからここに来てみたということでした。古木が言うには、商社マンには34度線(韓国と北朝鮮の休戦ライン38度線からきている)というものがあって、入社以来それを越そうと必死で働くのだそうです。34度線というのは、34歳という年齢のことで、商社では34歳で幹部候補社員とそうでない社員を振り分けるため、社員は入社以来幹部候補社員に入るべく必至に努力します。その選別というのが360度評価で、仕事ができる(上司の評価が高い)のは当然で、取引先や同期、先輩、後輩、更には掃除のおばちゃんの評判も考慮されるということです。そのため社員は評価者の八方に気を使うのですが、中にはその反動で評価者ではない人にはぞんざいな態度をとる者がいるということです。殺された牧島も34歳で社内外で評判が良かったということですが、果たして評価者以外の人、例えばマンションの住人や親族、友人の評判はどうだったのか気のなるところだ、言います。ドラマでは近所の住人の子供がノーリードで散歩させていた子犬が牧島に吠え掛かった際に蹴り殺し、悪態をつきます。その後その子供は両親と散歩中に死んだ子犬によく似た子犬を見つけて道路を飛び出した際に車にはねられて死亡したことから両親の恨みを買い、牧島は両親によって殺されます。

私は終着駅シリーズが好きでよく見ていましたが、この挿話など刑事ドラマと言うよりビジネスドラマと言った方が良いくらいだと思います。作者の森村誠一は商社マンだったのかと思って調べてみたホテルマンだったことが分かりました。たぶん商社マンとも付き合いがあったものと思われます。

34度線という言葉は初めて聞きましたが、どこの会社でも30歳代で幹部候補生とそれ以外を選別しています。私が知っている商社では入社4年目くらいで海外要員と国内要員が選別されているようでした。入社後最初の3年は国内の部署に配属され、その後海外要員は海外の大学に語学研修に出され、その後は習得した言葉の国で勤務するケースが多いようです。一方国内要員とされた社員はずっと国内勤務で、かつ初任地と同じ支店に定年まで勤務する社員もいるようです。これを見ると選別は入社後すぐ始まり、最終選別が34歳のように思われます。

メーカーの場合、これがもう少し遅く37,8歳ではないでしょうか。同期から初めて課長が出る頃であり、先頭で課長になった社員は有力な幹部候補生となります。ただし部長や取締役となると、実績よりも360度評価の割合が高くなり、人格者が昇進しているように思われます。会社に就職する学生さんは、34度線という言葉を覚えておいた方が良いと思われます。