ラピダス支援に国債を発行する法案は廃案に
政府は2月7日、次世代半導体の量産を目指すラピダスなど半導体支援に向け、情報処理促進法と特別会計法の改正案を閣議決定したしたという報道です。「ラピダスなどの半導体企業」となっていまますが、狙いはラピダス1社です。今年後半にラピダスに1,000億円を出資する方針が決まっており、その後必要となる資金を随時提供できる法的枠組みを整えようとしています。支援財源を新たな国債を発行して確保できるよう特別会計法を改正するとしていますが、これは大問題です。日本の国債発行残高は1,300兆円を超えており、償還不可能です。そのため年金や生活保護費は据え置かれ、教育環境は世界最悪となっています。さらに政府は何かにつけ増税や社会保険料の値上げを言い出します。こんな中1民間企業、それも事業として成功する見込みがないベンチャービジネスに国債を発行して資金支援するというのは、財政規律的にも国民感覚的にも許されません。
ラピダスは2nmという現在世界最先端の半導体を受託生産することを目指していますが、日本には10nmレベルの半導体を生産できる企業もありません。半導体の生産技術は生産を続けることによって磨かれてきており、現在世界最大の半導体受託生産企業である台湾TSMCは1987年テキサスインスツルメンツで半導体生産に携わっていた台湾人モリス・チャンによって設立されて以来37年間半導体生産技術を磨いて3nm半導体の生産に漕ぎつけています。これを追う半導体メモリー世界一のサムスン電子も3nm半導体の生産には手間取り、まだ十分な歩留まり率を実現できずにいます。こんな中半導体生産経験が全くないラピダスがTSMCさえ生産していない2nm半導体を生産するなんて夢想だにできません。
更に3nm半導体を使うユーザーは限定(Apple、NVIDIA、Qualcomm、AMDなどの米国企業)されており、これらの生産はTSMC1社で間に合っています(サムスンも委託先がない)。
このためラピダスに投資するような民間投資会社は皆無となっています。ラピダスの出資先はキオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTTおよび三菱UFJ銀行の計8社であり、ラピダスは外形上純粋な民間企業ですが、出資額を見ると三菱UFJ銀行(3億円)以外の7社は10億円で並んであり、お付き合い出資であることが分かります。経産省が音頭をとって出資を募り、多くが断った中でこの8社が断れなかったものと思われます。ラピダスの東哲郎会長の出身母体である東京エレクトロン、小池淳義社長の出身母体である日立製作所が出資していないことから、関わりたくないことが伺えます。またキャノンやニコンなどの半導体関連企業も出資に応じておらず、事業に否定的なのが分かります。今後メガバンクなどが出資に応じるとの報道ですが、これらは政府の保証により巨額の融資を行い得られる利息収入の一部を充てるものであり、懐は痛みません。その他の出資先も製品の納入価格に出資額を上乗せする約束があることが疑われます。このようにラピダスへの出資は経済ベースではなく政治レベル、談合レベルのものです。ラピダスが行き詰った段階で出資先は株主から不正出資として責任を追及されることになります。
一方今回閣議決定された国債発行による資金支援は、国政レベルでの不正行為と言えます。これまで国債を使って民間企業を支援したケースは、バブル崩壊により不動産融資で損害を受けた銀行に資本注入したケースしかないのではないでしょうか。あれは国民生活インフラである決済システムを守るためという正当な理由がありましたが、ラピダス支援には全く正当な理由は見出せません。日本には2nm先端半導体を必要とするユーザーはおらず、国内には需要がありません。それでは海外で需要があるかというと現在ないし、将来もありそうにありません。このようにラピダスには必要性が全く見いだせないのです。これを国債を発行して支援することは、主導する経産官僚の道楽か、支援する半導体戦略推進議員連盟の暴走としか思えません。共に高齢の文系出身者が旗振り役であり、半導体生産に関しては素人です。幸い現在の国会は野党が多数を占めていることから、政府提案のこれらの法案を否決することを期待したいと思います。