日経の経済記事は軽過ぎてまるで日軽

大企業同士の経営統合として報道を賑わせた日産とホンダの経営統合問題はわずか50日で破局を迎えました。しかしこれについては予想通りだった人が意外と多いと思われます。本件については昨年12月18日に日経が特報しましたが、これに関するヤフコメを見ると「成就しない」「ミスマッチ」「ホンダがヤバくなる」のど否定的な声が多数でした。これからも分かるように明らかにミスマッチであり、実現する方がおかしいものでした。従って破談は妥当であり、問題は両社が経営統合交渉入りを決めたことにあります。

私は本件に関する日経の特報を見て「やらかしたな」と思いました。それは、こういう情報は先ず発表まで漏れることはないことから、誰かが策略的にリークしていると考えられること、またこの組み合わせは無理があり成立しない可能性が高いからです。ようするにやらせ記事に近いと思われました。この記事を見て2023年12月6日の日経報道「日銀総裁、雨宮氏(日銀副総裁)に打診。政府は与党と最終調整」を思い出しました。その後12月10日に政府が植田和男元東大教授の日銀総裁就任を発表(リーク)したことから、この報道は世紀の大誤報と言われました。次ぎの日銀総裁には10年続いた黒田総裁の政策を転換することが求められており、黒田総裁を支えた雨宮副総裁が昇格することは背景的にあり得ませんでした。こんな中雨宮副総裁昇格の未確認記事を書くなど正気の沙汰とは思えませんでした。今回の日産とホンダの記事については、経営統合交渉入りと報じただけであり経営統合と報じたものではないので誤報ではありませんが、統合実現の可能性は極めて低いものでしたから、特報として報じる性格のものではなかったと思われます(日産とホンダの発表を待って報じればよかった)。それに日経の情報源は、日産の統合交渉推進派からのリークと思われ、日経は彼らの策略に手を貸したことになります。こういう場合、リークがあったことが問題になり交渉入りが破談になることや交渉の進展に悪い影響を及ばすことがあります。今回交渉が破談になったことには、このリークが不信感となって悪影響を及ぼした可能性があります。

一方1月24日AM5:00発出の読売オンラインは「ホンダと日産の経営統合に向けた協議を巡り、三菱自動車は合流を見送る方向で調整に入った」と報じました。これは本来なら日経が報じる内容です。日経はどう出るのだろうと注目していたら、同日AM9:02 日経電子版で「三菱自動車は24日、ホンダと日産自動車が検討している経営統合への枠組みについて一部報道が合流を見送りと報じたことについて、「決まったという事実はない」とするコメントを出した。」と報じました。

その後日経は、同日14:34発出の日経電子版で次のような記事を発出しています。

「ホンダと日産自動車の統合を巡り、統合の前提となる日産の具体的な再生計画の策定に時間がかかっている。米国やメキシコ工場で人員削減をする案があるが、ホンダに詳細を提示できていない。経営統合の行方が決まらないため、三菱自動車も参画方式を固められない状況になっている。」

要するに日産の再建計画が固まらないことから、三菱自動車は統合への参加決定を先延ばしにしたという論調です。日経は12月18日に日産とホンダの統合交渉入りを報じて以来三菱自動車の合流は既定のように扱っており、ここでもこの見方は変えていません。しかし三菱自動車は昨年10月日産が保有する三菱自動車株式34%強のうち約5%を買い取り、日産が持つ重要事項承認権(拒否権)を外しており、日産から離脱する選択権を手中にしていました。従ってどう見ても上手く行くとは思えない日産とホンダの経営統合に加わらないことは十分にあり得ることであり、日経はこの見地から注意して取材をする必要がありました。また日経の記事を見ていると企業広報が書いた広報文を記事にしたと思われるものが多く、広報に取材することが多いように思われますが、読売の記事は三菱商事など三菱自動車以外の企業から取材した可能性が高く、取材力の差が出たものと思われます。

2月5日朝日経は日産が当日の取締役会でホンダとの経営統合交渉の打ち切りを決めると報道し、午後2時半頃には取締役会で決定したと報じました。この報道の時点で日産の取締役会は終了しておらず(終了したのは午後5時頃)、この情報は取締役会に参加した日産の取締役(または幹部)から休憩中に日経記者に伝えられたものと思われます。これから考えると12月18日の経営統合交渉入りの情報もこの日産取締役(または幹部)から日経記者にリークされたものと考えられます。やはり日産は伏魔殿であり経営より権力闘争に力が注がれていることが伺えます。

2月15日日経は『本命は「スリーダイヤ」 ホンダが日産より欲した秘石』という記事を掲載していますが、これも的外れです。ホンダにとっては規模の拡大が経営課題であり、販売台数約300万台の日産と約80万台の三菱自動車を比べれば日産に魅力があるのは当たり前です。三菱自動車のPHEVの技術が欲しかったという意図のようですが、三菱自動車との経営統合を望むならメインバンク(三菱UFJ銀行)が同じこともあり、ホンダは直接交渉が可能です。

このように日産とホンダの統合に関する日経の記事は、背景理解が浅薄、経営者や投資家の視点がないことが原因で薄っぺらな内容となっています。これではこの春から始まる読売の経済紙により購読者を奪われそうです。