ホンダは幼稚な経営で1兆1,000億円の損失

昨年年末から経済界の話題を独り占めにしてきた日産とホンダの統合交渉は、50日余りで破談となりました。理由は、当初対等な経営統合と言っていたホンダが日産の子会社化を条件にしてきたからとなっています。確かに昨年12月23日の統合交渉開始の記者会見では、日産の内田社長は対等な関係での経営統合を目指すと明言していましたし、ホンダの三部社長も日産のターンアラウンド(経営再建=黒字化)が条件と言っていましたから、日産の子会社化は念頭になかったと思われます。なのにホンダが日産の子会社化を条件にしたのは、次のステップに進むかどうか判断するとしていた1月末が迫っても日産の再建計画が具体的にならなかったためのようです。要するに日産の再建を日産自身に委ねていたのでは日産のターンアラウンドは不可能と判断したことになります。これは日産とホンダの経営統合にホンダが一歩踏み込んだことを意味します。と言うのは、日産は今年1兆円を上回る借入金の返済や社債の償還を控えており、ホンダが日産を子会社化すればこれらに対してホンダが責任を持つことを意味するからです。今後日産の損益が更に悪化すればホンダの負担は数兆円に膨らみ、ホンダ自身も危なくなる可能性があります。果たしてホンダの経営陣がここまで深く考えてのことなのかは疑わしいところです。なぜならば、日産とホンダの経営統合に関するこれまでの経緯を見ると、ホンダの経営陣の判断は軽率の誹りを逃れられないからです。

そもそも日産が単独で再建計画を作成し実行できないことは、日産の歴史を見れば明らかでした。一度潰れかけた日産を立て直したのは1999年にルノーから派遣されたカルロス・ゴーン氏であり、日産出身者ではありません。そして2018年11月に日産役員が司法取引を使ってゴーン氏を追い出した後日産出身者が社長に就任しましたが上手く行っていません。今の内田社長など世間では無能呼ばわりです。こんな中で日産のターンアラウンドを前提に経営統合交渉入りするなどあり得ない判断です。また設定した統合交渉のスケジュールも実現不可能でした。1月末に次のステップに進むかどうか判断するとしていましたが、日産の第三四半期決算が発表されるのは2月中旬であり、判断する材料が揃いません。その後6月の株主総会で統合の承認を採るとなっていましたが、この段階で日産のターンアラウンドを確認するのは不可能であり、従って株主総会の承認を取るのも難しいと考えられます。このようにスケジュール的にも不可能な設定をしており、見直しが不可避でした。これは現実的なスケジュールに直せばよいだけなので問題ないのですが、ホンダの経営陣は決定的な間違いを犯しました。それは12月18日に日経が経営統合入りを報じた後ホンダの株価が下落しホンダの株主に損害が生じたため、12月23日に正式に経営統合交渉入りを発表すると同時に1兆1,000億円の株式買入消却を発表したことです。

これが間違いだったことは破談になったことを考えれば明らかですし、ホンダの三部社長は日産のターンアラウンドが交渉成立の条件と述べていましたから、株式買入消却の発表は日産のターンアラウンドを確認した時点で行うべきなのは明らかです。最近株式買入消却は盛んに行われていますが、ホンダクラスの会社でも1回に1,000億円から2,000億円が相場です。それを1回で1兆1,000億円(全株式の24%)やるとは正気の沙汰とは思えません。私はこのニュースを聞いて「財務部門が良く反対しなかったな」「取締役会が良く承認したな」と思いました。この2つの関門では私のような見方をするのが普通だからです。これがすんなり通った(あの段階で発表された)ということは、ホンダでは牽制作用が全く働いていない(一方通行)ということになります。世間では日産の経営陣に対する批判が強いですが、ホンダの経営陣も相当問題(幼稚)があります。今回の統合交渉で日産の経営陣は大きなミスをしておらず会社に損害(風評被害はあるが)を与えていませんが、ホンダの経営陣は株式買入消却によりホンダに1兆1,000億円の無意味な資金流失という損害を与えています。これはホンダが今期稼いだ利益(当期予想利益1兆200億円)が全額流出することを意味しており、被害は甚大です。ホンダは経営体制を見直さないと生き残れないと思われます。