日産は巨額の損失を次の経営陣に先送り

昨年末以来注目されていた日産とホンダの経営統合交渉は大方の予想通り破談となりました。統合交渉入りが正式に発表されたのが昨年12月23日で、今年1月末までに次のステップに進むかどうか判断するとなっていましたから、スケジュール的に無理がありました。というのは、日産の第三四半期決算の発表は2月中旬の予定でしたから、1月末までには確認できず判断のしようがないからです。それに日産は昨年11月の第二四半期決算発表時に約9,000人の従業員と約2割の設備の削減を発表しましたが、実行された様子がないばかりが具体的計画も発表されず、ホンダが求める日産のターンアラウンドは見通せませんでした。そのため次のステップに進むかどうかの判断時期が1月末から延期になることは統合交渉入り発表直後から明らかでした。

これが破談にまで至ったのにはルノーの存在があります。ホンダは日産からルノーのシェアは約17%だと聞かされていた(株主名簿上もそうなっている)と思われますが、その他に信託銀行に移管したものが約19%ありました。信託銀行保有分はルノー名義ではありませんが、議決権の行使にはルノーの意向が反映されると考えられ、一体と見る必要がありました。するとルノーの実質的シェアは約36%となり、経営統合を否決できます(経営統合には株式総数の3分の2以上の賛成が必要)。経営統合交渉の発表後ルノーは「ステークホルダー(利害関係者)として最善の利益になるようにあらゆる選択肢を検討する」と表明しており、統合成就にはルノーの同意が不可欠なことが明かにとなりました。この障害を取り除くためには、日産がルノー側保有分約36%を(あるいは日産が買い取れることになっていた信託銀行保有分19%を)ルノーが満足する株価(30~50%のプレミアム付きの株価)で買い取ればよいのですが、現在の日産の財務状況からすれば不可能です。ならばホンダが買い取るかとなるわけで、これを決断したのがホンダによる日産子会社の提案でした。ルノーと信託銀行保有分約36%をホンダが買い取っても商法上の子会社(51%)にはなりませんが、重要な決定にはホンダの承認が必要となり実質的な子会社となります。ホンダは買い増して51%以上を保有する完全子会社化を提案したものと思われます。約7兆円ある日産の借入金と社債の返済責任をホンダが負うことになることを考えれば当然と言えます。

こうなると日産の判断は、子会社化にYESかNOしかないので簡単だったと思われます。現在の財務内容でも4,5年は持つのでNOと言う結論になるのは理解できます。

それよりも問題なのは第三四半期決算に関する記者会見中に発表された日産のターンアラウンドに対する姿勢です。ターンアラウンドはホンダと経営統合しなくても必要であり、単独で経営再建を目指す覚悟を決めたのなら相当踏み込んだ再建計画が公表されると思っていたら、真逆でした。これでホンダのプレッシャーがなくなったとばかり全ての再建策が先送りになっていました。第三四半期決算は、売上高9兆1,432億円(前年同期比-0.2%)、営業利益640億円(同-70.5%)、経常利益1,594億円(同-70.5%)となっており、思った程悪い数字ではありません(経常利益が多くなっているのは営業外収益にデリバティブ利益1,047億円を計上しているため)。しかし内容を見ていくと自動車事業は約1,910億円の赤字となっており、深刻な状況であることが分かります(金融事業の利益約2,144億円で穴埋め)。キャッシュフロー(CF)を見ると営業CFは465億円のプラスですが、前年同期より約4,572億円減少しています。投資CFが6,526億円のマイナスで、これを財務CFのプラス(借入金増加)5,036億で穴埋めしている感じです。米国に於ける昨年12月の日産車の在庫は約2カ月でトヨタ、ホンダより1カ月分多い状況であり、これは第三四半期の決算を悪くしないために押し込み販売(販売会社に奨励金を付けて引き取ってもらう)が行われたことが疑われます。日産はこれを繰り返しており、決算が終わった翌期の第一四半期決算が悪化する傾向にあります。役員はこれで命脈を保ってきており(株主総会を通過)、日産の悪しき慣習化しています。第三四半期決算発表の席で発表された今後の再建策においても、人員削減数が約9,000人から後退している、設備過剰(約320万台の販売に対して生産能力は約500万台)についても現状維持(シフトの見直しなどで対応)となっており、次の経営者に先送りしています(内田社長は退任を示唆した)。設備過剰の場合、普通の企業なら過剰設備の減損処理(帳簿上の金額を減らす)を行うことが多く、今年1月米国GMは販売不振の中国事業で約5,000億円の減損処理をしています。今回日産がこれをしていないということは、この分が含み損として存在すると言うことであり、金額にすると3,000~5,000億円になると予想されます。次の経営陣がこの分を翌期第一四半期に損失として表面化することになります(前の経営者の責任であることを明確にするため)。