私立高校無償化では私立中高一貫校には行けない
2025年度予算案の修正を巡り自民党、公明党と日本維新の会は、私立高校の生徒への就学支援金を2026年度から最大45万7,000円に引き上げることを明記した合意書を作成したということです。昨年12月に所得税が非課税となる所得の額(103万円の壁)について国民民主党が自民党と「178万円をめざして、来年から引き上げる」との合意文書を交わして国民民主党が補正予算案に賛成し成立させたところ、自民党は来年度は123万円とするという案を出してきて国民民主党の考える額と大幅に乖離していたことから揉め続け、昨日破談となりました。合意文書を読めば自民党がこのような数字を出してくることは予想されることであり、これは自民党と国民民主党の政治劇のように思われています。このため維新は来年から引上げる金額の明記を求めて交渉してきたようです。
合意の内容は2つに分けられます。1つは、就学支援金について2025年度から公立・私立ともに年収910万円の所得制限を撤廃すること、2つ目は、2026年度からは私立高校に通う生徒向けの就学支援金を現行の年間最大39万6,000円から、私立高授業料の全国平均額である45万7,000円に引き上げるということです。これによってこれまで私立高校に行けなかった家庭の生徒が行けるようになるかと言うと、そうでもないようです。と言うのは、支援されるのは授業料のみであり、私立高校にはこのほか施設整備費や研修費などが授業料なみにかかるからのようです。それでも家庭の負担が50万円程度に減れば私立に行ける生徒も大幅に増えると思われます。
しかし多くの中学生が私立高校に進学したがるのは、公立高校に比べ私立高校の方が進学指導が充実しているからですが、難関大学や医学部に高い進学実績を出しているのは私立中高一貫校であることに留意する必要があります。私立中高一貫校は元々高校からの入学枠は少ないのに最近更に減らし、付属中学校からの進学者(内部進学者)だけにしているところが多くなっています。灘高校は灘中学からの進学者160人に対して他中学校から灘高校への進学者(外部進学者)は40人(20%)となっています。開成高校は内部進学者300人に対して外部進学者100人(25%)です。渋谷幕張高校は2026年から外部進学を2クラス約55人から1クラス35人に減らすとしています。麻布高校、桜蔭高校は設立以来全員内部進学者ですが、最近では東大寺学園、豊島岡女子なども高校からの入学を廃止しており、この傾向が強まっています。それは内部進学者と外部進学者では学習進捗度が異なること(私立の中高一貫校の方が大体1学年早い進捗度)が原因のようです。その他大学付属中高(大)一貫校では、校風を維持するために高校や大学で内部進学者の割合を増やす(一般入試枠を減らす)ところもあります(例えば慶大)。
このような実体を見ると、私立中学の授業料を無償化しないと私立高校授業料無償化の効果が小さいことが分かります。私立高校無償化が進んでいる東京都や大阪府でも私立中学校までは無償化していません。これは中学校までは義務教育として無償化されており、私立中学校に通わせるのは特別な教育として家計が負担すべきという考えに基づくように思われます。しかし優秀な才能の持ち主に優良な教育を受けさせることが日本経済発展にとって不可欠であると考えれば、優秀な子供の私立中学校進学を支援することは国益に適うと考えられます。日本は現在経済面で韓国や台湾、中国にも抜かれているのが現実ですが、これは教育面でこれらの国に後れを取っていることが原因です。日本は教育の受益者は生徒・学生個人として教育費負担を家庭や学生に押し付けた結果、裕福な家庭の子供しか優良な教育を受けられなくなってしまいました。戦後日本の経済発展は貧しい家庭の子供が裕福になることを目指して懸命に勉強したからであり、政府も教育費は無償として支援したからです。現在韓国、台湾や中国はこの考え方に基づいて教育を強化していますが、日本は税収不足を補うため教育費を家庭や学生個人に負担させています。これが強化されるにつれ日本経済は没落しており因果関係は明白です。日本経済復興のためには私立中学校と国立大学理工系(文系は通信教育主体とする)まで無償化することが不可欠です。