兵庫県の第三者委報告書は欠陥だらけ
3月19日、兵庫県議会の斎藤知事不信任決議、斎藤知事の辞職、出直し知事選での斎藤知事再選という大混乱を生んだ告発文書問題を調査するために設置された兵庫県の第三者委員会の報告書が公表されました。
ポイントは以下の通りです。
1.元西播磨県民局長(以下県民局長)が行った通報は公益通報と言え、保護されるべきであった。
2.県が県民局長に対して行った懲戒処分のうち「誹謗中傷文書の作成・配布行為」を理由とする部分は効力を有しない。
3.斎藤知事のパワハラについて10件認められた。
新聞では報告書の上記結論を引用し斎藤知事非難に結び付けていますが、この報告書の上記結論に至る論理には大いに問題があります。以下に理由を述べます。
先ず1についてです。県民局長が作成(2024年3月12日付)し10か所(国会議員、県議会議員、兵庫県警本部、マスコミなど。今回はマスコミへの通報が公益通報になるかが問題になるのだから配布されたマスコミ名も重要であり公表すべきだった)に配布した文書には斎藤知事の公益を害する行為として7つの項目が上げられていますが、内容の妥当性について報告書は6つは妥当性がないとし、最後のパワハラの指摘だけを妥当としています。詳しく見ると
1.令和6年3月6日(実際は2月29日)にひょうご震災記念21世紀研究機構理事長の五百旗頭真理事長が急死(急性大動脈解離)されたのは斎藤知事が副理事長2名の解任(実際は任期満了による退任)を前日に通告したからである。解任通告は五百旗頭理事長と指名者である前井戸田知事に対する斎藤知事の嫌がらせである。
判断)
因果関係が不明と言うしかない。
21世紀研究機構に対する人事政策は県の裁量に属するので、違法性があったとは言えない。
2.県職員4名が公職選挙法違反、地方公務員法違反して斎藤知事の選挙を手伝った。
その結果斎藤知事誕生後論功行賞で出世した。
判断)そのような事実は認定できなかった。
3.斎藤知事が令和7年に実施予定の知事選のために商工会議所や商工会に投票依頼を行ったのは公職選挙法違反、地方公務員法違反である。
判断)そういう事実は認められなかった
4.斎藤知事は個人的に要望して贈答品を大量に受領しており贈収賄に当たる
判断)贈収賄と判断できる事実はなかった。
5.斎藤知事の政治資金パーティ券を片山副知事ら側近が所管の団体に利益の供与などを絡めて購入させた。
判断)主張の根拠がない。
6.信用金庫へ補助金を増額し、その分を阪神・オリックス優勝パレード協賛金として支出させた。
判断)不正の事実は認められなかった。
7.斎藤知事は限度を超えるパワハラを行っている
文書で指摘したもののうち4つについてはパワハラであると認められる。
・20m手前で車から降ろされたことを大声で怒った
・知らないことが報道されたことで担当者を叱責した
・知事との協議の際、机を叩いて怒った
・幹部職員に対して夜間休日にチャットで業務指示を行った
この判断を見ると配布文書は公益通報ではないように思えますが、報告書は以下の理由により公益通報に当たると言っています。
- 公益通報には真実相当性が必要だが、真実だと考える相当な理由があればよい。
- 指摘事項が全て真実相当である必要はなく、1つでも真実相当性があればよい。
- 県側は不正の目的(執行部転覆)があり3号文書(外部公益通報文書)に該当しないと言うが、不正の目的はなく3号文書に該当する。
この公益通報に当たるという判断理由には大いに疑問があります。今回の通報はマスコミになされた3号通報であることが特徴ですが、3号通報には真実相当性が重視され、内容の真実性を示す証拠の添付が必要と言われています。それがなかったため通報を受け取ったマスコミ(社名も重要になる)は公益通報として扱えず報道しませんでした。一昨年熊本県で公益通報が新聞社になされましたが、この場合には県庁幹部が補助金申請の不正を見逃すよう指示したと疑わせる録音データが添付されていたため、新聞社は公益通報と判断し大々的に報道しました。マスコミは公共団体の不正はニュースバリューがあることから本来飛び付くところですが、本件についてはこれまでの経験から怪文書と判断し報道しませんでした。これに対して報告書は下記のように述べ、「不正の目的はない」から公益通報に当たると判断しています。3号通報に該当するかどうかを判断するのは通報されたマスコミですが、報告書はマスコミの判断を否定して公益通報であると判断しているのです。ということは公益通報を報道しなかったマスコミにも責任があることになります。(以下報告書から)
~「不正の目的がない」というためには、上記のような不正の利益を得る目的や他人に損害を与える目的での通報と認められなければ足り、もっぱら公益を図る目的での通報と認められることまで要するものではない。
「不正の利益を得る目的」とは、公序良俗に反する形で自己または他人の利益を図る目的を言い、「他人に損害を与える目的」での通報とは、他の従業員その他の他人に対して、社会通念上通報のために必要かつ相当な限度内にとどまらない財産上の損害、信用の失墜その他の有形無形の損害を加える目的をいうと解される。
確かに、本件文書中には斎藤知事や片山副知事らを揶揄するような表現があり、公用パソコン内に存在したデータ中には、「政権転覆」という文言もあった。しかし西播磨県民局長が退職間近だったこと等に照らすと、それは単に空想上のものであって、実行に移す意図までを窺いしることはできない。また本件文書の配布先が10か所に限定され、その中に県警本部が含まれていたことや、上記の通り、取扱に注意してほしいとの注記がなされていることから、直ちにこの文書を広く流布して県政を混乱に陥らせようとの不当な意図も看取することはできない。現に、3月27日の斎藤知事記者会見までは、世間の注目を集めてなかったし、それによる県政の混乱もなかった。~
この見解は笑止千万です。この文書はマスコミに対して配布されており、その意図はマスコミに報道させ斎藤知事県政および文書に上げられた関係者の信用失墜を狙ったものです。これが狙い通り報道されていたら斎藤県政および関係者の信用は失墜していました。それはこの文書が明かになってからの県議会の不信任決議、その後のマスコミの斎藤知事および関係者に対する攻撃をみれば明らかです。報告書は、「この文書を広く流布して県政を混乱に陥らせようとの不当な意図も看取することはできない。現に、3月27日の斎藤知事記者会見までは、世間の注目を集めてなかったし、それによる県政の混乱もなかった。」と言っていますが、詭弁もいいところです。作成者名も明記せず指摘事項の証拠も添付せずマスコミに配布したことは「広く流布して県政を混乱に陥らせよう」との意図の表れであり、「現に、3月27日の斎藤知事記者会見までは、世間の注目を集めてなかった」のは、マスコミが怪文書として扱い(公益通報とは認めず)報道しなかったからです。
この論理構成は配布文書を何が何でも公益通報文書とするためのものであり、みっともないと言えます。司法試験でも不合格答案です。
報告書では不正の目的がないのだから懲戒処分のうち「誹謗中傷文書の作成・配布行為」を理由とする部分は効力を有しないとしていますが、マスコミが怪文書として扱った(公益通報と扱わなかった)事実から、これを入手した県側が「誹謗中傷文書の作成・配布行為」と判断し懲戒理由とするのは妥当です。それに第三者委員会は裁判所ではく「効力を有しない」と宣言する権限はありません。何かご自身の立場を誤解されているのではないでしょうか。
斎藤知事に判断ミスがあったとすれば、この文書を入手した時点で県警に名誉棄損、地方公務員法違反などの容疑で告発しなかったことです。告発していれば県警によって本件全貌が捜査され、証拠もなしにこのような文書を配布した県民局長は少なくとも名誉棄損罪に問われた可能性が高いと思われます。たぶん斎藤知事は配布者が県幹部だったことから告発しなかったのでしょう。委員会はこの点も考慮する必要がありました。
この報告書の特長は斎藤知事のパワハラを広範囲に認めていることです。これは現在の社会情勢では受け入れ不能と思われます。これがパワハラの判断基準となるとすれば日本の全組織でパワハラが多数認定され業務遂行不能となります。報告書は県民局長の文書から4件、その他アンケートや申告から6件のパワハラを認定していますが、斎藤知事が約3年間知事を務めていることを考えると、数としては少ないと言えます。かつ1回きり、突発的な叱責や注意、威圧的な態度は短気な性格の表れと言え、パワハラと言えないように思われます。パワハラと言うためには、優越的地位に基づく行動が多くの担当者に日常的行われていること(悪い気質の発露)、または特定の担当者に継続的に行われていること(苛め)という要件が必要なように思われます。単発的に生じても証拠を押さえ改善を迫ることは不可能です。それにパワハラは人事委員会や監査役などに救済を求める手続きで解決すべきであり、このような第三者委員会で認定するものではないと思われます。
このように報告書の内容は妥当性を欠いており、兵庫県民多数の納得は得られないし、この報告書により兵庫県民が昨年の選挙で示した斎藤知事信任の態度を変えることはないと思われます。報告書の本文は6人の委員の能力不足が露呈したものとなっていますが、委員が本当に言いたかった内容は、最後第11章 原因・背景分析等に書かれているように思われます。この内容は法律的見解ではなく一兵庫県民としての委員の意見感想であり、このような混乱に陥った兵庫県政界の背景と斎藤知事が置かれた状況を推測把握し、頑張っている斎藤知事に教え諭すような論調になっています。委員長が斎藤知事に「よく読んで欲しい」と言ったのはこの部分だと思われます。