ラピダスへの1兆8,000億円は北陸新幹線金沢までの建設費!
経済産業省は3月31日、最先端半導体(2nm)の量産を目指すラピダスに追加で最大8,025億円の支援をすると発表しました。これまで9,200億円の補助金(委託費)を拠出していますので、合計1兆7,225億円の拠出となります。更に今年中に1,000億円の出資を予定しています。
ラピダスは2027年に量産を目指しており、4月から試作が始まりますが、半導体業界や民間投資会社で成功すると考えている人はいません。それは先端半導体の生産は半導体製造技術の蓄積により可能となるものであり、半導体製造経験のない新設企業がいきなりできるものではないからです。これは現在の半導体業界を見れば明らかです。現在生産されている最先端半導体は3nmですが、ユーザーが少ないこともあって世界最大の半導体受託生産会社TSMCの独壇場にあります。同業界で世界2位の韓国サムスン電子も生産技術は確立しているようですが、歩留まり(良好な製品が出来上がる割合)でTSMCに相当劣るようです。そのため大口ユーザー(Apple、NVIDIA、Qualcomm、AMDなど)は全てTSMCに発注していると言われています。これらの会社はこれまでTSMCの台湾工場で生産したもの米国に輸入していましたが、コロナや中国と台湾の緊張から安定供給に不安が生じたため、これらの会社の要請に応じTSMCは米国アリゾナ州に最先端の工場を稼働させました。これでも尚台湾からの輸入が必要だったのですが、トランプ大統領の高関税政策の影響でTSMCは米国に更に3つの工場を新設する(アリゾナに予定する3工場の他)と発表しました。この結果米国の先端半導体ユーザーの需要の大部分はTSMCの米国工場で対応できるようになるようです。このほか米国にはサムスン電子も最先端工場を建設している(建屋は完成したが顧客が確保できず設備の搬入をストップしている)ほか、インテルも参入しています。インテルは米国政府の補助金を得て最先端工場を建設し生産を始めましたが上手く行かず、大赤字となり(昨年約2兆5,000億円の減損を計上)リストラに着手しました。これを受けインテルは半導体製造部門を分社化しTSMCの出資を得て技術指導を仰ぐ方向にあるようです。
先端半導体の生産は半導体業界の巨人インテルでさえ手に負えない奥深い技術です。ラピダスはこの技術をIBMから導入するとしていますが、IBMは2014年に半導体事業を米国GLOBALFOUNDRIES社に譲渡し、完全に撤退しています。それも譲渡する側のIBMが15億㌦支払っていることから厄介払いだったことが分かります。そもそもIBMは先端半導体を生産した実績がなく、ラピダスがIBMから導入しようとしている技術は研究室レベルであり、ラピダスがIBMに代わり実証試験(実際に小規模な工場レベルで生産して使える技術かどうか確認する)をやるというのが実体です。
このように現在先端半導体の生産で確かな技術を持つのはTSMCだけであり、ラピダスがIBMから技術導入しようとしている時点で失敗は目に見えています。かつ日本に最先端半導体の大口ユーザーは不在であり、ラピダスも米国の大口ユーザーから受注する計画ですが、TSMCが米国に6か所の工場を建設することにしたことから(更に台湾にも工場を増設している)この目論見は絵に描いた餅です。
このように半導体生産経験の全くない企業を設立し、いきなり先端半導体の生産に参入しようと言う企てが荒唐無稽です。これはwindows OSとmac OSが支配するOSやChrome、edge、Safariが支配するブラウザの世界に新規企業が参入する以上の難易度です。それもこれらの企業の創業者は若くして創業した歴史に残る天才ですが、ラピダスの経営者(会長、社長)は70歳を超えた他社の退役経営者であり、成功ストーリーから大きく外れます(TSMCのモリス・チャンは米国半導体メーカーテキサス・インスツルメントCEO候補から台湾に帰り53歳で創業)。
こう考えるとラピダスが成功する可能性は0だと言え、こんな事業に国費を1兆8,000億円も投入することは狂気の沙汰です。ちなみに1兆8,000億円と言えば、北陸新幹線の長野~金沢間の建設費に相当します。北陸新幹線は東京~大阪を結ぶ補完ルートとして早期に完成すべきだったところ資金不足から2015年まで18年間(長野までは1997年に開通)かかっています。一方ラピダスには約2年で北陸新幹線長野~金沢間の建設費とほぼ同額が投入されています。ラピダスには今後国の債務保証を含め合計5兆円の投入が予定されており、これは北陸新幹線の新大阪までの建設費に相当します(物価上昇による建設費上昇は考慮せず)。新幹線は長い間国民に利便性と経済的効果をもたらしますが、ラピダスの工場は廃墟となることが確実です。これを考えると日本政府と予算を承認した国会議員は狂っているとしか思えません。ラピダスへのこれだけの資金投入が可能となったのは、経産族のドンと言われた甘利明前衆議院議員の力によるところが大きいようです。甘利氏が昨年の選挙で落選したことは歯止めになりますが、甘利氏の後釜には同じく経産族の岸田元首相が就いており、まだまだ無駄遣いが続きそうです。