日野と三菱ふそう統合報道はホンダ日産の再現

4月22日日経が日野と独ダイムラートラック傘下の三菱ふそうトラック・バス(三菱ふそう)が経営統合で最終合意する方向で調整に入ったと報じました。持ち株会社を設立し、2026年4月を目標に上場をめざすとしています。この報道を見てホンダと日産の統合報道と重ねた人も多いと思います。本件に関するヤフコメを見ると「ホンダと日産の二の舞にならなければよいが」というコメントがありました。この可能性は十分にあります。報道された背景が似ているのです。

通常本件のようなデリケートな問題が外部に漏れることはありません。極めて少数の人しか関与していませんし、関与者には箝口令が敷かれています。関与者は少数なので漏れたら誰が漏らしたか直ぐ分かってしまいます。今回日経が特報で報じたことは、誰かが意図的にリークしたと考えられます。トヨタは豊田会長が日経嫌いで有名ですから、トヨタ・日野側からリークすることはないと思われます。だから意図的にリークしたのは三菱ふそう側となります。それにトヨタ・日野側は統合を延期した方であり、今更急ぐ必要もありません。統合延期期間が長くなって三菱ふそう側に統合が破談になるのではという疑念が湧いて来ており、統合を既成事実化するために今回のリークに至ったと考えられます。

これには更に背景があります。3月28日付で三菱ふそう会長に元自工会専務理事の永塚誠一氏が就任しているのです。 永塚氏は経産省自動車課長や商務情報政策局長を経て、2014年5月から2024年5月までの10年間自工会副会長・専務理事を務めていました。この間豊田会長が自工会会長を3期務めていますので、豊田会長との付き合いも長く、三菱ふそう会長就任は日野との統合実現のためと考えられます。問題は、日野と三菱ふそうの統合は、豊田会長と永塚会長の人間関係で上手く行くような問題ではなくなっていることです。日野のエンジン認証不正を受けて2023年5月30日に、日野と三菱ふそうが2024年3月までに統合契約を締結し、2024年度中に経営統合すると発表されましたが、翌年2月29日にはこの計画を延期すると発表されました。理由は日野の認証問題への対応が継続していることや統合のための国の許認可の取得が遅れているためとしていましたが、一番大きな理由は認証不正により米国や豪州などで提起された訴訟による損害額が未確定なことでした。2023年5月30日に発表された統合計画では、トヨタとダイムラーが折半で持株会社を設立するとなっていましが、これはあくまであの時点での日野の財務内容に基づいたものであり、その後日野の財務内容が悪化した場合には見直すことになっていたと思われます(普通そうなっている)。日野は2024年3月期252億円の黒字(認証関連損失約600億円を固定資産売却益約920億円で穴埋め)でしたが、2025年3月期は約2,177億円の赤字(北米認証関連損失約2,584億円)となっています。この結果純資産は4,631億円から2,510億円に減少しています。三菱ふそうの2024年3月期の純資産は2,522億円ですからほぼ同額ではあるのですが、自己資本比率は日野約17.0%に対して三菱ふそう約45.1%と大きな差が出来ています。この結果ダイムラーは持株会社の持ち株割合の見直しを求めていると考えられます。というより2023年の統合合意書の中に見直し条項が入っていたはずです。そのためトヨタは日野の損失が確定するまで統合を延期したと考えられます。日野が2025年3月期決算で2,177億円の損失を出したことによりダイムラーは、持株会社の持ち株割合をトヨタ:ダイムラー=50:50から30:70あるいは40:60などダイムラーが過半数を握る構成に変更することを求めてきていると思われます。三菱ふそうが三菱自動車からダイムラーに譲渡されたのは、三菱自動車にダイムラーが3割程度出資後三菱製トラックにタイヤ脱落事故が発生したため出資契約上三菱自動車に隠れた瑕疵による賠償義務が発生し、三菱自動車は賠償金が払えずにトラック部門を譲渡することになったと考えられます。従ってダイムラーにとって日野は柳の下の二匹目の泥鰌ということになります。

これが分かるとトヨタとダイムラーの合意は簡単でないことが分かります。トヨタとしては持株会社に対する50:50の出資割合は譲れないでしょうから、これを実現するためトヨタが日野に2,000億円の出資をして日野の財務内容を合意時に戻すことも考えられます。問題はそこまでして日野を三菱ふそうと統合させる必要があるのかということです。というよりそれが日本の国益になるのか、日野の将来にとって良いことなのかということです。もし日野と三菱ふそうの統合が実現すれば、ダイムラーは日本の普通トラック(積載量4トン以上)の5割以上を支配下に置くことになります。日本の普通トラックの半数以上がドイツの支配下になるのです。それにこれでは日本から世界で戦えるトラックメーカーは出現しないことになります。日本ではトップのいすゞ自動車(いすゞ)でも世界では7,8位であり、単独では生き残れない状況です。ここでいすゞと日野が統合すれば売上高が約5兆円となり世界で戦えるトラックメーカーとなります。豊田会長も最初いすゞとの統合が頭に浮かんだと思われますが、普通トラックおよび小型トラックでシェアが80%を超えることから、公正取引委員会の承認が得られないと考え断念したものと思われます。しかし国内では独占でも世界的には戦えないというような独占禁止法の運用がおかしいと思われます。いすゞも日野も利益の7割以上は海外で稼いでおり、これがなければトラックの国内価格はもっと高くなっています。要するに世界で戦えるトラックメーカーを作らないと国内のトラックユーザーが不利益を受けるということです。こう考えると日野と三菱ふそうの統合は日本の国益に反すること、日野といすゞの統合こそが日本の国益にかなうことが分かります。また日野と三菱ふそうが統合すれば日野のエンジン開発部門は廃止され、ダイムラーのエンジンを使うなど日野はダイムラーの下請け化します。三菱ふそうはダイムラー傘下となってからシェアを落とし続けており、日本のユーザーから嫌われています。日野と三菱ふそうとの統合は、日野が第二の三菱ふそうになることを意味します。豊田会長がこのことに気付けば日野と三菱ふそうの統合は実現しないと考えられます。