通知表廃止で分かる地方が廃れる訳
岐阜県美濃市の全5小学校が、今春入学した1年生の通知表を廃止し、来年には2年生にまで広げるということです。教育委員会が決めたのかと思ったら、通知表の扱いは校長に決定権があり、昨年12月の校長会で決まったということです。校長に決定権があるのなら、5校で扱いがバラバラになるはずですが、5校一斉ということは、教育委員会の指導に基づくものであることが分かります。
今の通知表は教科ごとに「◎」「○」「△」の3段階評価に簡略化されているようですが、それでも「児童が丸の数だけをカウントして比較することで、自己肯定感が下がるのでは」などの意見が出ていて今回の廃止となったということです。ならば6年生まで、あるいは中学生まで廃止するのが筋なように思われます。3年生からは通知表を配布する方針としていますので、実験ということでしょうか。教育委員会の担当者は「低学年の児童は丸の数に縛られることなく、自分の良さを感じながら伸び伸びと成長してほしいとの思いを込めた取り組みで、市教委としても後押しをしていきたい」と話しているとなっていますが、こういう競争回避的な政策が成功した験しがなく、美濃市の子供の将来が心配されます。
子供の競争心を煽らないのなら通知表は意味がないのは事実です。通知表が採用されたのは、日本が貧しかった頃豊かになるには学力を上げるしかなかなく、そのためは常に子供の競争心を煽る必要があったためと考えられます。そしてこの政策は学力の必要性を意識することのない田舎ほど効果的だったように思われます。都会の学校では高校でも学力テストの結果を公表しない(生徒は自分が学年でどれくらいの学力レベルにあるのか分からない)学校もあるようですが、これは日本でもトップクラスの進学校です。また中学から服装自由、校則なしの学校もあるようですが、これも日本トップクラス進学校です。要するに学力優秀者の集まりであれば、成績を公表する、順番を付けるような競争を煽る行為は必要ありません。しかし競争が存在しない、あるいは緩やかな地域では学校で競争を煽らないと学力を上げる環境がありません。通知表廃止の次はテスト廃止になりそうですが、そうなれば田舎は本当に廃れることになります。
現在都会と地方の格差が拡大していますが、この原因は、都会は競争のリミターを外し、地方は競争を制限しているからです。例えば高校で見ると東京、大阪、神奈川などは学区制を廃止し、東京都では青山高校、大阪府では北野高校および神奈川県では横浜翠嵐高校に集まるシステムになっています。その結果今年の東大合格数で青山高校81人、横浜翠嵐高校74人となり私立中高一貫校に負けなくなっています(北野高校は京大が107人でトップ)。一方地方ではまだ学区制を維持しているところが多く東大などの難関大学への進学者を減らしています。その結果東大では首都圏出身者の高度な受験教育を受けた入学者が大部分を占めるようなった(地方出身地頭のよい学生を確保できなくなった)という問題を抱えています。現在は高度な学力がないと高収入な仕事には就けなくなっており、その結果都会と地方の収入格差が拡大しています。この現実からすると地方こそ競争促進策を採用すべきなのですが、どんどん競争回避策を採用しています。美濃市の通知表廃止もその流れの中にある感じがします。