社外取締役に乗っ取られた日産の悲劇

日産が次々とリストラ策を発表しています。5月9日には、今年1月に1,533億円をかけて北九州市に建設すると発表していた電気自動車向けバッテリー工場計画を中止すると発表しました。また同日夕方の日経電子版には、国内事務部門を中心に数百人規模の(こんなものでは済まない)早期退職を募集すると報道されています。これに先立つ4月24日には、2025年3月期の連結純損益予想を800億円の赤字から7,000億~7,500億円の赤字に修正すると発表し、この際日産のエスピノーザ社長は「強い意志を持って再建に取り組む」とコメントしていますので、これらのリストラ策はその具体化と言えます。7,000億~7,500億円の赤字は主に中国武漢工場の撤退損(減損)であり、資金流出を伴うものではないので金額ほど大きな意味はないのですが、日産には1年以内に返済が必要な長期借入金が約1.7兆円、同社債が約3,363億円(2024年12月末)あることから、資金繰りの観点で切迫していることが予想されます。日産は手元資金が約1.5兆円あるから大丈夫と言っていますが、銀行が返済の見込みがないとして借り換えに応じないと資金がショートしてしまいます。この手当としてルノーとの話し合いで現在15%保有しているルノー株式を5%まで売却できることとし、ルノーの電気自動車新会社に約1,000億円出資する約束を解消しました。またルノーと共同保有していたインド工場をルノーに売却しています。このほか三菱自動車株式を約29%持っており、これを売却すれば1,000~2,000億円の資金が確保できます。従って今期中に資金がショートすることはないと考えられます。しかし今季黒字化しないと来季は倒産の瀬戸際に追い込まれることが確実です。

今期以降の業績としては、今までにない期待が持てると思われます。何故かと言うとエスピノーザ社長になって前述の報道にあるように当たり前の事を確実に実施しているからです。これらは本来内田社長時代に実施すべきことでした。4月1日付で内田体制からエスピノーザ体制に交代し、エスピノーザ体制はギョーム・カルティエ氏、ジェレミー ・パパン氏、クリスチャン・ムニエ氏ら日産生え抜きとも言える外国人が要職を占めており、古い日産体質からの脱却が期待できます。2024年度の日産の販売台数は前期比4.3%減の329万8,140台で、このうち米国販売は約126万台と予想されます。日産は米国内のブランドイメージが低く安い車として売られているようですが、低所得層には一定のニーズがあることが伺えます。従ってこの購買層を押さえて人気車を出せれば生き残れる可能性はあると思われます。日産はゴーン会長時代米国で200万台近く販売していましたが、ゴーン逮捕後利益率が低いとして利益志向に転換した結果、販売台数を落としてきました。しかしゴーンはこのやり方で過去最大利益(2017年3月期経常利益約8,647億円)を出しており、経営としては間違っていませんでした。メーカーの場合、製造原価と出荷価格の差が利益の中心であり、販売台数が増えれば利益は増えます。低所得層への販売は、販売利益は低くても割賦販売(販売金融)が多く金利利益が大きくなります。日産は、2025年3月期営業利益は黒字を予想していますが、これは販売金融の利益が大きい(第三四半期の営業利益約2,372億円)からです。要するに車の販売(粗利)で稼げなくても販売金融で稼げればよいと言うことです(もちろん正常な姿ではありません)。一番悪いのは販売台数を落とすことです。内田体制ではこれをやってしまったのです。

エスピノーザ体制が当たり前のことをやり出したことを見ると、日本人と外国人の能力差を認めざるを得ないように思われます。これで日産は良い方向に動き出したと言えますが、一方では内田体制を作り出し、内田体制での誤った政策を承認してきた社外取締役体制は温存されています。日産は取締役全12名のうち社内取締役(執行役員兼務)が2名、大株主であるルノー指名が2名で、残り8名は社外取締役となっています。8名の社外取締役は他企業の経営幹部を引退した人が大部分で、1名は元カーレーサーとなっています。他企業経営幹部引退者ですから高齢が多いですし、経験業種はバラバラであり自動車メーカー経験者は誰もいません。こんな人たちに経営の舵取りを委ねるのは普通あり得ないと思われます。これがまかり通ってきたことが現在の日産の苦境に繋がっており、これにメスを入れないと日産の再建はありません。日産の社外取締役の指名権は社外取締役が握っており、現在の8名の社外取締役は今期も全員留任と発表されています。ここは株主が株主総会で8名の社外取締役を解任する必要があります。