これから株式非公開企業が増える
東証一部に上場する豊田自動織機(豊田織機)の株式をトヨタや豊田会長などが出資する特別目的会社(SPC)が買収し非上場化するとの報道です。豊田織機は、トヨタ株を9.07%、デンソー株を5.41%、豊田通商株を11.18%保有するなどグループの持ち株会社的な側面を持っていますが、物言う株主からは資本効率が悪いと指摘されていました。今後はトヨタと合わせてトヨタグループの株式を保有し、グループ持ち株会社の役割を明確化して行くと考えられます。
牧野フライス製作所がニデックから敵対的買収を受けたように突然買収提案されるケースも出てきましたし、フジメディアホールティングのように経営陣を丸ごと変える提案も出て来て、上場企業経営が難しくなっています。また東証では来年10月から市場区分ごとの基準を満たさない企業は上場廃止になるルールを厳格に適用します。その結果上場することの意義を再検討する企業が増えているようです。来年10月に向け上場廃止を決断する企業が相当出ると予想されます。
実はコスト的に見たら上場は割に合わない企業が多いと思われます。上場には監査法人に払う監査費用や証券代行会社に支払う費用などで相当のコストがかかりますが、これに見合うだけの上場のメリットが得られていない企業も多数あります。特に業績は良いが成長性は余りない企業では上場の最大のメリットである資金調達は上場時のみという企業も多くなっています。そういう企業は同族的な企業が多く、事業承継で苦労することになります。最近の非上場化は事業承継の問題から出てきたものが多いように思われます。この代表例は大正製薬ホールディングです。大正製薬ホールディングは大正製薬の持株会社ですが、大正製薬は上原家の家業から発展しており、代々上原一族が社長を務めてきました。2023年3月期の業績は売上高3,013億円、営業利益230億円と大企業と言ってよい業績です。しかし製薬会社と言っても市販医薬品が多く処方医薬品を開発するには体力不足であり、事業の成長性はありませんでした。これでは上場している意味は余りなく、非公開の上原家の同族会社の方が安心して事業に打ち込める状況でした。従って上場廃止にしたのは当然とも言えます。
豊田織機の2025年3月期決算は、売上高4兆849億円(前年度比6.6%増)、営業利益2,216億円(同10.6%増)であり、堂々たる大企業です。これまでにこれだけの大企業が業績悪化以外の理由で非上場化された例はないと思われます。豊田織機の非上場化には約3兆円の資金が必要と言われていますので、上場にはこれを上回るコストがかかることになります。それだけ上場のコストが増していることを意味します。
これと関連してベンチャー企業でも上場せずにその手前で企業を売却する例も増えています。ベンチャー経営者と上場企業の経営者は必要な才能が違うことが認識され、経営に興味がないベンチャー経営者が離脱しているようです。
これらを見るとベンチャー企業のゴールが上場だけでなくなったことが伺えます。今後は上場を目指さない、または上場企業を非公開化する企業が増えると予想されます。