日野・三菱ふそう統合の注目点は羽村工場のトヨタ移管

6月10日、日野自動車(日野)と三菱ふそうトラック・バス(三菱ふそう)の経営統合が発表されました。ロイターの報道を引用すると

「日野自動車は10日、三菱ふそうトラック・バスと2026年4月1日に経営統合すると発表した。それぞれの親会社のトヨタ自動車とダイムラートラックが持ち株会社を設立し、日野と三菱ふそうが傘下に入る。日野はトヨタに羽村工場(東京都羽村市)を売却することも発表した。 4社は23年5月に基本合意し、24年中の統合完了を目指していたが、日野自動車のエンジン認証問題などで延期していた。 持ち株会社は上場し、トヨタとダイムラーは株式を25%ずつ保有する。議決権比率はトヨタが19.9%、ダイムラートラックが26.7%となるよう調整する。 日野は、トヨタのスポーツ多目的車「ランドクルーザー」などの生産を手がける羽村工場をトヨタに1500億円で売却する。また、トヨタに普通株と種類株を割り当て約2000億円を調達し、トヨタからの借入金の返済に充てる。」

となっています。

昨年2月統合延期を発表したときには、この話は破談となり、日野といすゞ自動車(いすゞ)が統合し、世界で戦える日本のトラックメーカーを目指すことを期待しましたが、かないませんでした。なぜだろうと考えていたら、この発表から理由が見えてきました。もちろん日野といすゞが統合すると小型トラックシェアの約6割、大型トラックシェアの約7割を握り独占禁止法上問題となりますが、これは国内問題であり、世界で見れば国内トップのいすゞでも7,8位の売上高であり、単独では戦えない状況です。そして国内トラックメーカーは国内市場の縮小から海外で売らないと生き延びられない状況です。ならば独占禁止法も世界を視野に置いて運用されるべきであり、日野といすゞの統合も認める必要があります。この方向に動かなかったのは、世界のトヨタがこれまた世界のダイムラーと交わした約束を破棄するのは体面上できなかったということも当然あると思われますが、それ以上の大きな原因(取引)が上記報道から分かります。それはトヨタが日野の羽村工場を取得したことです。多分これは2023年5月合意の時点では含まれず、この1年間の交渉で合意に達したもので、今回の統合報道で一番の注目点です。羽村工場は日野の2,3トントラックとトヨタのランドクルーザー(ランクル)を生産しています。2,3トントラックは日野がデュトロ(「トントントン日野2トン」のCMでお馴染み)で、トヨタがダイナという商品名で発売し、2021年には合わせると国内で約50%のシェア(約4万6千台、)を持っていました(その後エンジン不正で販売できずシェア低下。低下後のシェアは不明)。

2,3トントラックはいすゞ(エルフという商品名)がトップシェアを謳っていますが、実体は日野・トヨタ連合がトップシェアを持っていたのです。三菱ふそうがダイムラー傘下となる前はキャンターという商品名でいすゞのエルフと競っていたのですが、ダイムラー傘下になってからシェアを落としてしまいました(約30%→約20%)。これから考えると日野と三菱ふそうとの統合で日野は2,3トントラックのシェアを落とすと考えられましたが、トヨタに移管するとなると事情が変わってきます。移管後はトヨタが生産し日野にOEM供給することになり、販売もトヨタが主体になると考えられます。トヨタはこれまで乗用車販売のついでに小型トラック(ダイナ)を販売していましたが、移管後は小型トラックの販売にも力を入れると思われ、販売台数が大幅に伸びることが予想されます。トヨタの場合整備工場数が多く、ユーザーにとって魅力的です。こうなるといすゞが食われることになり、いすゞの脅威となります。いすゞはトヨタに乗用車参入を阻まれており、今度は小型トラックで力の差を見せつけられるのでしょうか。

日野のBSの変化

2025・3時点

2026・3(太字斜線)予想

流動資産    8,362億円               流動負債 1兆0,213億円

現金    +3,500億円          →          借入金      -3,500億円

流動資産   8,362億円                      流動負債      6,713億円

固定資産    6,420億円        固定負債   2,058億円

土地      -400億円(仮)

建物機械等   -350億円(仮)

固定資産      5,670億円

純資産      2,510億円(16.9%)→+2,750億円 5,260億円(37.5%)

・資本金 727億円  →+1,000億円 1,727億円

・資本準備金 663億円→+1,000億円 1,663億円

・利益剰余金 -392億円→+750億円*  358億円  *仮の数字

資産計  1兆4,781億円              負債純資産計 1兆4,781億円

資産計    1兆4,032億円             負債純資産計   1兆4,032億円

 ・流動資産が流動負債を上回り運転資金に余裕ができる。

・固定資産はほぼ純資産で購入していることになり返済に追われることが無くなる。

・極めて健全な財務体質となる。

*トヨタの増資引受や羽村工場のトヨタ移管は2023年5月の統合合意後に発生した日野の資本欠損を補填するために実施。

*三菱ふそうは総資産5,589億円、純資産2,522億円 自己資本比率45.1%(2024年12月期)。

*統合後の売上高は日野1兆3,000億円(予想。羽村工場移管に伴い約2,000億円減少。)、三菱ふそう約8,000億円で合計約2兆1,000億円、経常利益約1,000億円程度と予想される。

*いすゞの2025年3月期決算は売上高3兆2,080億円、経常利益2,482億円、純資産1兆6,064億円、自己資本比率43.9%なので、統合会社は売上高で3分の2,純資産で半分程度の規模となる。