「財政はギリシャより悪い」のに現金給付?

6月13日石破首相は物価高対策として夏の参院選の自民党の公約に国民1人あたり2万円の給付を盛り込むと表明しました。子どもと住民税非課税世帯の大人には1人2万円を加算するということです。

石破首相は5月19日の参院予算委員会で国民民主党の浜野喜史氏が「財政的な制約があるから減税を躊躇しているのか。減税して消費を増やすべきだ」と迫ったのに対し、「わが国の財政状況は間違いなく、極めてよろしくない。ギリシャよりもよろしくないという状況だ。」と述べています。これは会社の社長が「うちの会社の資金繰りは危機的状況だ」とマスコミに発表するのと同じレベルの発言であり、多くのエコノミストから批判されています。また自民党の森山裕幹事長は6月2日、国会内の講演で、「消費税を下げるような公約は、どんなことがあってもできない。そんなに余裕のある国ではない」と述べています。そんな中での現金給付の話です。自民党のツートップの異常さが分かります。

2025年度の日本の予算を見ると歳出は約115兆円で、これを主に税収と国債で賄っているわけですが、税収が約78兆円、国債が約29兆円となります。税収は2024年度の当初予算を約8兆円上回る額を見込んでいます。石破首相はこれをさらに上回る税収が予想されるからこれを財源にすると述べています(一方森山幹事長は2024年度の税収増分を充てると言っているが、これは今年度予算の税収に含まれていないとおかしい)。しかしこれは詭弁です。予算段階で税収不足を補うため国債を約29兆円発行する計画なので、財政が「ギリシャよりもよろしくない」日本とすれば、税収増は国債発行額の減額に回すのが当然です。これを現金給付に回すと言うのは参議院選挙対策(給付金で票を買う)であることは明らかです。これは多くの有権者が分かっていることですが、中にはお金が貰えることに引かれて自民党に投票する有権者も出てくると思われます。この結果減るべき国債発行額が減らず結局増税や社会保険料増額という形で国民に付けが回ることになります。

ネットでは最近国債は国の借金であり国民負担にはならないという意見が多いですが、国債約1,300兆円のうち日銀が約580兆円を保有しており、その主な購入原資は銀行などが預けている日銀当座預金(約521兆円)であり、日銀当座預金は個人や法人が銀行に置いている当座預金や普通預金などのうち銀行が貸付金などに使用しない分であることを考えれば、国債が返済不能になれば(引受手がなくなれば。日銀は市場から購入はできるが引受(財務省から直接買うこと)はできない)最終的に国民が損をすることになります(銀行が預金を預金者に返還できなくなる)。要するに今のままでは国債残高の半分くらいは国民が損を被るということであり、税収増は国債残高を減らすために使う必要があることになります。