日産エスピノーザ体制はルノーの傀儡
日産の株主総会が6月25日に開催されましたが、私が注目したのは社外取締役8人が再任されるかどうかでした。というのは、日産は前期約6,700億円の赤字を出し内田社長、星野副社長らが退任しましたが、内田社長を指名し経営を監視していた社外取締役8人が誰も責任を取らないのはおかしいからです。特に取締役会議長の木村康氏、指名委員会委員長のアンドリュー・ハウス氏、監査委員会委員長の永井素夫氏、報酬委員会委員長の井原慶子氏の責任は重いものがあります。しかし結果は全員再任でした。それもいずれも90%を超える賛成率です(順に91・12%、92.46%、91.53%、92.40%)。これを見て日産は経営陣ばかりでなく株主も腐っていると思いました。最近は大きな不祥事があった会社は社長でも不信任されています。
なぜこういう結果になったかというと、日産がルノーに支配されているからです。ゴーン逮捕後ルノーは持ち株比率を約43%から約36%に落とし、かつルノー本体は15%(残り約21%は信託銀行に信託)と日産のルノーに対する持ち株比率と同じくするなど対等な関係を強調して来ましたが、実際は違ったようです。日産の内田前社長は、本命だった関潤専務を押しのけての就任でしたが、これは当時指名委員会委員長だったルノーのスナール会長が強く推した結果と言われています。そして内田社長の無能さが明かになっていた段階でホンダとの経営統合話が出てきたわけですが、これはホンダからの子会社化の申し入れにルノー(スナール会長)が反対し破談になったと言われています(株主の3分の2以上の賛成が必要なのでルノーが反対すれば実現しない)。そして内田社長の退任、エスピノーザ社長就任となったのですが、これもちょっとおかしい人事でした。というのは、当時社長候補と言われた3人(エスピノーザ、カルティエ、パパン)の中で一番若く(46歳)、かつ商品企画担当が長く経営技術は未熟と思われたからです。カルティエ氏は50歳代でヨーロッパ・アフリカの販売を統括していましたから販売政策に強みがあり、パパン氏は50歳代で投資銀行経験が長く財務に強みがありましたから、エスピノーザ氏より経営技術は高いと思われました。エスピノーザ氏になったのは、日産の課題は売れる商品を出すことだからという講釈がありますが、私が知る限り商品企画や開発出身者で成功した経営者はいません。何故かと言うと経営は経験(既知)がものを言うが、商品企画や開発は創造性(新規性)がものを言うからです。エスピノーザ社長の指名には内田社長の指名と同じ臭いがします。どういう臭いかと言うと「扱いやすい」という臭いです。エスピノーザ社長は経営技術が未熟ですから日産を影で操ろうとする者にとって「扱いやすい」のです。
エスピノーザ体制になって気付くことは、ルノーが協力的なことです。例えば
・ルノーのEV新会社に日産が1,000億円出資する約束を解消した
・ルノーに対する日産の出資割合15%を10%に落とすことを認めた
・日産とルノーが共同出資で設立運営しているインド工場の日産持ち分をルノーが買い取った
これらは日産の資金繰り危機を救うためですが、エスピノーザ体制になって1~2か月内で決まっており、ルノー側が提案したものと思われます。またエスピノーザ体制になってから従業員約2万人の削減や世界7工場の停止など大規模な再建計画を発表していますが、これは経営経験の乏しいエスピノーザ社長が主導できるものではなく、別に再建を主導する人物がいる、または再建チームがあることが伺えます。それはルノーが派遣した人物とチームとしか考えられません。今回ルノーは日産に派遣する取締役をスナール会長とピエール・フルーリォ氏からヴァレリー・ランドン氏とティモシー・ライアン氏に替えていますが、この両名が再建を指揮しているかも知れません。同時に彼らをサポートする再建チームを送り込んでいるように思われます。でないとこれだけの再建計画を策定することは不可能です。
ということは、8名の社外取締役の再任はルノーが望んだものであり、8名が望んだことではないことになります。ルノーは日産株を約36%持っており、ルノーが反対すれば彼らの再任は不可能です。これが分かるとエスピノーザ社長も8人の社外取締役もルノーの傀儡、操り人形であることが分かります(ルノーがここまで日産の再建に必死になるのは、日産が倒産すると約36%の出資が数千億円の損失になるから)。