大河原化工機相沢顧問遺族には最高裁長官の謝罪が必要

大川原化工機への警視庁と東京地検の捜査を違法と認定した東京高裁判決が確定したことを受け、6月20日警視庁の鎌田徹郎副総監と東京地検の森博英公安部長が同社本社を訪れ、大川原正明社長と島田順司元取締役に謝罪しました。しかし勾留中に亡くなった相嶋静夫顧問の遺族は「まだ謝罪を受け入れられる状況ではない」として謝罪を受けず、代理人弁護士を通じて警察、検察と利害関係がない第三者による検証などを盛り込んだ要望書を手渡したということです。これは当然で検察庁の検証チームの責任者は山元裕史次長検事となっていますが、山元次長検事の経歴を見ると2020年に東京地検次席検事に就任しています。2020年と言えば東京地検が大川化工機を起訴した年であり、山元検事は次席検事(地検各部門実務所管)として起訴に直接的または間接的に関わっていることになります。東京地検は翌2021年に7月に起訴を取り消していますが、山元検事はこの前の同年4月に東京高検に転出しており、起訴取り消しのための転出のように見えます。こんな山元検事が最高検で本件の検証責任者を務めるのでは公正な検証結果は期待できません。大河原化工機の大河原社長も相沢顧問遺族と歩調を合わせるべきでした。

本件においてはもう1人謝罪すべき当事者がいます。それは裁判所です。本件では大河原社長、島田取締役、相嶋顧問が2020年3月11日に逮捕され、同年3月30日に起訴されましたが、その後裁判が始まる前の2021年7月30日には有罪を立証はできないとして起訴を取り下げました。逮捕された大河原社長、島田取締役、相嶋顧問らは無罪の主張を取り下げなかったため勾留され続け、保釈されたのは約11か月後の2021年2月5日となっています。この間相島顧問にはガンが見つかり、勾留執行停止中の身分で入院治療を行い、保釈後の2月7日死亡しています。

本件では約11か月に及ぶ勾留も問題となります。大河原社長らは逮捕後7度保釈を請求しましたが、検察官が証拠隠滅の恐れがあるとして反対し、裁判所は保釈を認めませんでした。特に悲惨なのは相嶋顧問で、勾留中に身体に異変をきたし、2020年9月には輸血を行ったため弁護団は緊急治療の必要性を理由に保釈を申請しましたが、やはり証拠隠滅の恐れを理由に裁判所は保釈を認めませんでした。同年10月に拘置所内の医師が悪性腫瘍の疑いを指摘し大学病院を受診したところ胃ガンと診断されますが、大学病院では勾留執行停止中の患者の手術や入院はできない決まりでした。そのため弁護団は入院手術をするため保釈を申請しましたが、裁判所は証拠隠滅の恐れという検察官の主張を認め、保釈を認めませんでした。同年11月になって勾留執行停止中でも入院手術が可能な病院が見つかり、手術を受けることができました。そして2021年2月5日に8回目の保釈請求が認められたのですが、相嶋顧問は保釈の2日後に亡くなっています。死期が近いことが分かって検察官が証拠隠滅の恐れを主張せず、裁判所が保釈を認めたものと思われます。

日本の刑事司法においては勾留期間が長いことが世界的に有名ですが、勾留者が保釈を申請しても検察官は「証拠隠滅の恐れ」を理由に保釈に反対し、裁判所は検察官の主張を入れ保釈を認めません。「証拠隠滅の恐れ」が鉄板の保釈却下理由になっています。検察は相当の証拠を押さえて逮捕勾留しているはずであり、保釈して隠滅される証拠にはたいしたものは無いと考えられます。従って拘留はせいぜい3カ月までで、それ以上必要な場合は検察官が具体的な証拠隠滅の内容を示し、裁判官がその妥当性を判断する必要があります。これによれば拘留が長くなることはありません。相沢顧問の場合、2020年9月に輸血を行った時点で保釈を認めるべきだったと思われます。これ以降の保釈申請の却下は明らかに裁判官の重大な判断ミス(というより職務放棄)と言えます。もし検察審会のような組織が本件を審査すれば保釈却下不当の審決が出るはずです。この判断ミスが相嶋顧問の命を縮めており、裁判所を代表して最高裁判所長官が相沢顧問遺族に謝罪すべきと考えられます。