国有企業のラピダスに黄金株って馬鹿?

経済産業省は7月4日、次世代半導体の量産を目指すラピダスを支援する条件として、重要な経営事項に対して拒否権を持つ「黄金株」を政府が保有する方針を示したという報道です。技術流出の防止などが目的ということです。

しかしこれは全く無意味です。なぜならラピダスは現在も今後も実質的に国有会社だからです。

現在のラピダスの出資先はキオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTTおよび三菱UFJ銀行の計8社であり、三菱UFJ銀行(3億円)以外の7社は10億円ですから資本金は73億円となります。これを見るとラピダスは純粋な民間企業ですが、各社とも経産省に言われて断り切れなかったお付き合い出資であることが分かります。ラピダスは千歳市に巨大な試作工場を建設しており、2nm半導体製造の肝となる極端紫外線露光装置だけでも200億円以上しますから、73億円なんかはした金です。この土地、建屋と設備に要する資金は1兆7,000億円程度と想定されており、全額国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通した国の補助金です。そしてこの補助金で購入した土地、建屋や設備などの所有権はNEDOにあります。ラピダスがこれをNEDOから無償で賃借する形で試作を始めますが、いずれ現物出資に振り替える(1兆7,000億円出資したことにする)ことが予定されています。その結果資本金は1兆7,073億円となり、民間8社の出資割合は0.42%となります。ラピダスは政府から1,000億円の出資を受けるに当たり民間から同額程度の出資を集める計画ですが、その場合でも民間の出資は5.6%(1,073億円÷1兆9,073億円×100)にしかならず、94.6%が国の出資となります。これなら国の機関と同じであり、国のコントロール下になります。

黄金株はこの6月に日本製鉄がUSスチールを100%買収した際に話題となりましたが、これは資本構成上日本製鉄がUSスチールの支配権を持つから必要となるものであり、本店をピッツバーグから移転する、USスチールの商号を変える際に米国政府が拒否権を持つと言われています。これにラピダスを当てはめれば、民間でラピダスの株式を3分の2以上持つ場合にしか意味がありません(合併や技術譲渡などを拒否できる)。政府の出資金の大きさ(約1兆8,000億円)からするとこのような事態は想定できません。今回の黄金株の話はホットな話題を使って政治家や国民にラピダスの事業が有望であると見せかける目くらましと言えます。

7月4日にはTSMCが米国工場を優先するために熊本第二工場の建設を延期する計画だという報道がありましたが、2nm半導体の大手顧客は米国に集中しており、日本にはありません。従ってこの報道は十分あり得ることであり、ラピダスが米国の顧客を獲得することが困難なことを示すものでもあります。

ラピダスにとって先ず重要なことは試作できるかであり、次は大量生産できるかです。サムスン電子やインテルも大量生産で躓いており、全く半導体の生産経験がないラピダスが成功するという想定は不可能です(技術支援するIBMは2015年に半導体事業をグローバルファンドリ―ズ社に1,500億円支払って譲渡(損切)しており以後半導体は生産していない)。よって黄金株は全く無意味と言えます。そもそも経産省の魂胆はラピダスを経産省傘下の研究所(半導体製造技術研究所)にすることです。