関税合意の肝は対米貿易黒字の米国還流
トランプ大統領(トランプ)は7月22日、日本と関税協議で合意したと発表しました。7月20日投開票の参議院選挙で自民党が惨敗し、石破首相は退任確実な情勢だったことから、トランプは死に体の石破首相とは交渉しないと予想されましたが、逆だったようです。死に体の石破首相だからこそ譲歩を引き出せるし、新しい政権となったらまた0からやり直しとなり、時間が掛かると考えたように思われます。その証拠に合意内容はそう米国に利益があるとは思えないものになっています。
日本側が負う具体的な義務は
・電気自動車(EV)よりも燃料電池車(FCV)を優遇している現行の購入補助金を見直す。
・安全性を確保した米メーカー製の乗用車を追加試験なしで受け入れる。
・大豆やトウモロコシなどの農産品、半導体、航空機の購入を拡大する。
・米国産米を関税ゼロのミニマムアクセス米の枠内で優先購入する。
などであり、金額ベースで米国からの輸入が増えるのはせいぜい1~2兆円ではないでしょうか。これで関税が25%から15%に下がったら、円安を考えれば車の輸出でも十分に利益が出ます。
どうも米国の狙いは日本が米国の求めに応じて行う5,500億㌦(約80兆円)の投融資にありそうです。これについてラトニック商務長官は、米国がプロジェクトを決めたら日本側は資金を拠出(融資)し、利益は米国9,日本1の割合となると述べています。これについて赤沢大臣は、それは日本側が1割出資した場合であり様々なケースがあり得ると述べています。5,500億㌦は、日本の年間の対米貿易黒字約8兆円(2024年度)の10年分であり、「日本が輸入拡大して貿易黒字を解消しないのなら、米国への輸出で得た利益を米国に還流せよ」と言うわけです。考え方として有りだと思われます。米国が考えているプロジェクトは米国の経済安全保障上米国内での生産が求められる製品に関するものと思われ、「日本が資金を拠出すれば利益の1割は日本にやるから日本にもメリットがあるよ」という理屈のように思われます。この発想の背景には日本製鉄のUSスチール買収があり、鉄と同じく経済安全保障上米国内生産が求められるけれど米国メーカーが衰退し日本メーカーが優位性を持っている製品(産業)について、日本に資金と技術を出させようとするものように思われます。経済安全保障上重要な産業であることから失敗は少なく、日本企業が米国に進出するとすれば有望な事業と言えます。従って日本としてはこの資金を今後とも有望であり続ける米国市場への日本企業の進出を支援するためのものと考えれば有効なお金の使い方になると思われます。ただし関税が25%から15%に下がったとは言え大幅な引き上げには変わりなく、今後対米黒字は急減することが見込まれることから、昨年の対米黒字約8兆円をベースとした10年分の金額である5,500億㌦(約80兆円)は明らかに不合理な金額であり、2,000~3,000億㌦=約30~40兆円が妥当な金額のように思われます。