ラピダスは後期高齢者の冥途の土産
7月18日2nm半導体の受託生産を目指すラピダスは建設中の新工場がある北海道千歳市内のホテルでカスタマーイベントを開催し、試作品で動作を確認できたと発表しました。小池社長は「例のないスピードで実現した。これは日本初であり、画期的なことだ」などと強調したと言うことですが、業界の反応は冷ややかです。ラピダスには国が1,000億円出資することが決まっていますが、その条件として民間からも同額程度の投資を募ることとなっており、ラピダスは民間からの投資集めに必死ですが、この発表により出資が決まったという話は出ていません。経産省で半導体戦略を所管する西川和見大臣官房審議官が「試作の評価は素人には分からない」と述べているように、試作品の評価はユーザーしかできません。今はユーザーに評価してもらうだけの数量もなく、数百個、数千個試作してみていくつか満足の行くものが出来た段階だと思われます。企業の研究所の開発段階や大学の研究室でたまたま上手く行った段階のように思われます。そうでなければ大々的に記者会見を開いて発表しています。
前述の西川官房審議官は日経のインタビューでラピダスは「日本だけなら2秒で失敗」と述べており、日本側に2nm半導体を製造する技術がない、人材がいないことやユーザーがいないを表しています。ラピダスの社員が800人を超え平均年齢が50歳を切ったという報道がありましたが、これから分かることは、ラピダスは50歳を超えた半導体技術者の集団であるということです。日本の半導体メーカーが世界の一流だったのは今から約30年前の1980年代であり、その頃の若手技術者がラピダスに集っていると思われます。その頃と今では技術に隔絶の差があり、失われた時間と技術は埋めようがありません。これが西川審議官が言ったラピダスは「日本だけなら2秒で失敗」の意味するところです。それをIBMの支援で埋めるという意味のようですが、IBMは2015年に半導体事業から撤退していますし、IBMが支援したサムスン電子、インテルは上手く行っていません。
ここでラピダスの経営陣を見ると経営を引っ張る東哲郎会長は今年76歳と後期高齢者になります。東会長は46歳で東京エレクトロンの社長に就任した半導体製造装置業界では超有名人のようですが、技術者ではなく営業(マーケティング)で力を発揮した人のようです。経産省との折衝や投資の営業、提携先との交渉などの渉外を一手に引き受けているようです。
小池社長は今年73歳で、1978年に日立に入社してから一貫して半導体事業に携わって来ています。2002年には日立と電子機器受託製造企業UMCの合弁会社の社長を務めた経歴があります。
清水敦男専務(64歳)は富士通の半導体技術者で 、ロジック半導体の開発経験や半導体工場の運営経験もあり、実質的にラピダス技術部門を指揮しているようです。ラピダスの代表取締役は小池社長と清水専務の2名になっている(東会長は代表取締役ではない)ことからも、清水専務の存在の大きさが分かります。
村上敦子専務(66歳)はソニーグループの執行役員財務担当からの転身であり、数兆円とも言われるラピダスの必要資金調達に手腕が期待されてのことと思われます。
法務・コンプライアンス管掌取締役として松尾 眞(74歳。国際法務の弁護士)が名前を連ねており、海外企業との契約を一手に引き受けているようです。
この顔ぶれを見ると残念ながら終わった人たちであり、最先端半導体の分野で台湾TSMCと戦えるメンバーには到底思えません。民間の投資会社なら100%投資することはありません。経産省のプロジェクトではこのような似非民間企業を作り、そこに国の資金を流し込むことが行われますが(和歌山のロケット打ち上げ企業スペースワンも同じパターン)、成功法則からは程遠く経産省のままごと遊びと言えます。
ラピダスは後期高齢者の冥途の土産というところでしょうか。