公職選挙法は検察の政治家に対する武器

兵庫県の斎藤知事が公職選挙法違反の容疑で神戸地検から取り調べを受けたという報道です。これは兵庫県警から送検されたことによる当然の手続きですし、告発は神戸地検も受理していますから、自身の処理手続きの一環でもあります。この報道に対するヤフコメを見ると相変わらずこれで斎藤知事は起訴されるというコメントが多く、本件が井戸田前知事派と斎藤知事派の政争であることが分かる内容となっています。政争ですからこれは兵庫県民の選挙で決着をつけるしかなく、既に昨年11月の出直し知事選挙で斎藤知事が再任されていることから、決着は着いています。なのに負けた井戸田派は選挙の際斎藤知事はSNS戦略をPR会社に委託しており公職選挙法違反(買収)として、斎藤知事を失職に追い込むことを狙っています。これは全く馬鹿げたことで、SNS戦略をPR会社に委託したという証拠もない(PR会社の社長がそう思っていただけ)し、そもそもSNS戦略を委託すれば公職選挙法違反になるということは今回初めて明らかになりました。要するにSNS戦略の委託が公職選挙法の違反行為として周知徹底されていなかった(このSNS時代に違反行為とすることがおかしい)ことから、いきなり公職選挙法違反に問うことはあり得ない(罪刑法定主義に反する)ことになります。それに万が一公職選挙違反(買収)となるとしても買収されたのはPR会社の社長と従業員のせいぜい4,5票であり、選挙結果に全く影響しません。これで111万票獲得した斎藤知事を失職させるのは民意に反します。

こう考える公職選挙法(の運用)は見直しが必要なことが分かります。即ち公職選挙法違反で責任を問うか(起訴するか)どうかの判断に当たっては、公職選挙法違反行為で当選者が獲得した票数がどれだけ当選に影響を与えたかを考慮する必要があると言うことです。もしこの影響が軽微なら起訴できない(しない)ことになります。その場合でも違反行為があったことは公表(イエローカード)し、以後公職選挙法違反行為があった場合に考慮することになります(イエローカード3枚で悪質として起訴)。このように公職選挙法の運用を厳格にしないと軽微な違反で民意がひっくり返されることになります。

公職選挙法違反は候補者や運動員が気を付けていても発生するものであり、警察や検察には選挙期間中にライバルの候補陣営から多くの情報提供があると思われます。その結果警察や検察は違反情報を多数蓄積しており、多くの当選者がいつでも公職選挙法違反で起訴されうる状態にあると思われます。これは警察や検察が政治家を業務や人事に介入させない抑止力になっています。例えば自民党広島選挙区選出の河井克之衆議院が公職選挙法違反で起訴され失職しましたが、これは河井議員が法務大臣として当時の稲田検事総長を黒川東京高検検事長に交代させようとしたからです。この効き目は絶大でその後当時の安倍政権はこの企みを放棄しました(黒川検事長が失脚した)。その後自民党裏金事件では起訴する裏金の金額をどこに置くかで起訴される議員数が大きく変わることになりましたが、検察は4,000万円に設定し5名の起訴に留めました(65人不起訴。2023年12月27日)。この後直ぐ(2024年2月29日)検事長人事が発令されており、裏金処理のお礼に検察の人事案を政府(内閣人事局)が丸のみしたものと思われます。裏金事件以降政府自民党は検察人事に介入できなくなっており、検察人事は検察のフリーハンドになっていることが伺えます。

このように運用基準が曖昧な公職選挙法(や政治資金規正法)は検察の政治家に対する牽制手段となっており、運用基準を厳格にするまたは内容を見直す必要があります。