ホンダが移転すべきは八重洲ではなく和光

8月30日ホンダが八重洲への本社機能移転を発表しました。これは今のホンダ経営陣のレベルの低さを示す出来事です。ホンダは現在の青山本社が老朽化したことから2023年9月に建て替えを発表しています。そのため今年5月には虎ノ門の賃借ビルと和光の自社ビルに分散転居しました。八重洲で入居するのは三井不動産が中心となる再開発ビルで2029年度中の完成入居を予定しています。これなら虎ノ門や和光に転居する必要はなく、現在の青山本社から直接八重洲に移転すればよかったことになります。

ホンダが青山新本社建設から八重洲移転に切り替えたのは、トランプ関税で業績が悪化する見込みであることが大きな要因になっています。ホンダは今年8月6日に2026年3月期の業績予想を売上高21兆1,000億円、利益4,200億円と発表しましたが、2025年3月期と比べると売上高が2.7%減、利益が49.8%減となっています。トランプ関税の影響で米国での売上高と利益の落ち込みが大きくなりますし、中国での落ち込みが止まりません。2026年3月期の自動車部門は赤字に転落する可能性があります。そうなると青山新本社建設にお金を掛けられなくなります。さらにホンダは昨年12月日産との統合協議入りで下落した株価を上げるために1.1兆円の自社株を買いを発表し、1.1兆円の資金を社外流出させています。ホンダと日産の統合協議は難航が予想されている中での見切り発車であり、ホンダ経営陣のレベルの低さが良く現れていました。案の定この統合は破談となり、1.1兆円はムダ金となってしまいました。この付けが八重洲移転となって表れていることになります。八重洲移転も青山本社の敷地の権利と八重洲再開発の権利の一部(再開発ビルのフロア)を交換したものであり、資金の流失を伴わないことが決め手になっています。

この八重洲移転にもホンダ経営陣のレベルの低さが表れています。なぜなら本社を移転するなら八重洲ではなく和光だからです。ホンダは技術陣の優秀さで大きくなった会社であり、技術陣が活躍する場所は研究所や工場です。だとすれば本社は研究所や工場がある場所がよいことになります。実際社員の多くが研究所や工場にいますし、資金の多くを使っています。東京に置くのがよい部門は営業部門(宣伝も含む)くらいです。総務や人事、財務部門も東京に置く必要はありません。ホンダの場合技術研究所があり、工場跡地にオフィスビルを建設している和光に本社を移転するのがベストです。今年5月から青山本社の一部の社員が移転しているようなので、そこに全員移転することにすればよかったのです。創造的思考を好む技術者なら当然至る結論ですが、ホンダの技術者出身の経営陣は研究開発や生産の現場を離れたらすっかり自分らの強みを忘れて、大企業の悪しき習慣(本社は東京)に従っています。最近東京に本社があるメーカーが都心から脱出し、主力工場や開発部門がある場所に本社を移転する例が増えています(東芝、富士通、オリンパス、ニコンなど)。ホンダも国内で見れば軽自動車メーカーであり、実力が上なスズキやダイハツが地方に本社を置くことを見れば、東京都心に本社を置く必要は全くないことが分かります。それに日本で強いメーカーは愛知県と京都府に集中し、東京都心に長く本社を置くメーカーは大体がおかしくなっています。

ホンダもこのことに気付き、いずれ八重洲から和光に本社を移すことになります。