TSMCや鴻海は台湾だから生まれた
先端半導体の受託生産では台湾TSMCが1人勝ちの状況です。同じく半導体業界の巨人である韓国サムスン電子も全く歯が立ちません。先端半導体の殆どのユーザーがいる米国では、これでは経済安全保障上問題があるとしてパソコンCPUでトップのインテルに補助金を付けて先端半導体を生産させようとしましたが上手く行かず、経営危機に発展しています。この3社以外に先端半導体を世界に供給できる企業は見当たらず、この中で現在信頼できる製品を生産できるのはTSMCだけです。
TSMCの2024年度の業績は、売上高約13兆7千億円、利益約5兆5千億円となっており、利益ではトヨタ(約4兆8千億円)を上回ります。TSMCは顧客が設計した半導体を注文を受けて生産する受託生産企業(ファンドリ)です。日本ではファンドリを生産下請と見做していたことから、TSMCがここまで巨大な存在になると予想した人は少ないと思われます。それに不思議なのは半導体を含む電子機器業界の巨人である韓国サムスン電子が太刀打ちできないことです。サムスン電子もファンドリ事業を立ち上げましたが、TSMCに遠く及ばないばかりか引き離されています。サムスン電子はDRAMや携帯電話、カラーディスプレイなどで世界1,2位を占め、売上は約30兆円(2024年度)とTSMCの2倍以上ありますが、利益(営業)はTSMCの約6割(約3.3兆円)に留まります(2024年度)。サムスン電子は高い開発力を武器に画期的な製品を開発して世界トップの電子機器メーカーになりましたが、TSMCは自社では開発を行わず他社が開発した製品を作るだけです。サムスン電子で言えば製造部門に該当します。サムスン電子では製造部門は開発部門があってこその存在であり、開発部門より下の位置付けです。製造部門は開発部門が開発した製品をちゃんと作ればよい、ちゃんと作るのが当たり前であり、日の当たる存在ではありません。従って生産部門のモチベーションは開発部門ほど高くないと言えます。サムスン電子のファンドリ事業が上手く行っていない(先端半導体を安定的に生産できない)のは、サムスン電子での製造部門の位置付けからすると当然とも言えます。
一方TSMCは製造部門が主役であり、製造部門に優秀な人材を世界から集めています。人材の能力とモチベーションの点でサムスン電子とは相当差があるように思われます。これはインテルでも同じことが言えます。インテルの場合、米国では製造業が廃れ優秀な人材が枯渇していることも影響しています。TSMCは米国アリゾナ州に最先端の半導体工場を作り稼働していますが、生産に当たっては台湾の工場から約2,000人を派遣していると言われています。米国と台湾では製造現場の従業員レベルでも相当の差ができているようです。
こう考えると研究開発力を強みとする企業が受託生産で成功することは難しいと思えてきます。米国や韓国では新しいものを創造できる人が尊敬され、大学においては創造力を高める教育がなされています。そのため製造現場の技術者になる人には優秀な人が少なくなっており、それも受託生産企業となると尚更です。一方台湾はまだ開発力ある企業が育っておらず、どちらかと言うと世界からライセンスを導入して、または生産を受託して低コストで良い物を作る段階にあるように思われます。だとすれば、台湾でTSMCや鴻海のような世界的受託生産企業が育つのは当然であり、開発主導型の国から受託生産企業が育つことはないように思われます。日本では受託生産=下請けというイメージが強いことから尚更です。