賃金上昇を取引価格に転嫁する法制が必要

9月5日、2025年度の最低賃金(時給)が全都道府県で決定しました。全国加重平均の引き上げ額は過去最高となる66円(6.3%)で、全国加重平均の最低賃金は1,121円となります。この結果全都道府県で時給1,000円以上となるということです。

最低賃金は企業が労働者に支払う賃金の下限額で、毎年労使の代表と有識者からなる厚生労働省の審議会が経済状況に応じて都道府県をABCの3ランクに分け、それぞれの引き上げ目安を示します。今年度はABランクが63円、Cランクが64円を目安としていました。この目安を踏まえて各都道府県の審議会が各地の金額を決定しますが、今年の結果を見るとCランクを中心に大幅引上げが相次いでいます。引上げ額が最も大きかったのは熊本県の82円(上乗せ18円)、大分県の81円(同17円)、秋田県の80円(同16円)、岩手県の79円(同15円)となっています。これをみると隣県同志で最低賃金を巡るつば競り合いが行われたことが分かります。熊本県と大分県の場合、熊本県が決定した翌日に大分県が熊本県より1円高い最低賃金を決定しています。この結果最低賃金の最高額は東京都の1,226円で、最低額は高知県、宮崎県、沖縄県の1,023円となり、差は203円で昨年度に比べて9円縮まったと言うことです。

今年の場合、審議会の決定に際し経営者側委員が席を立つ(出席しない)ところが目立ちました。確かに経営者側からすると厳しい引上げかもしれません。

日本ではやっと1,000円を突破しましたが、世界で見るとオーストラリア2,411円、イギリス2,231円、ドイツ2,049円など日本の約2倍となっています。米国は2009年に最低賃を7.45ドル=約1,100円に設定して以来改定していませんが、各州では2,000円を超えるレベルにあります。日本より1人当たりの所得が2割程度高いと言われるお隣韓国が1,098円と日本より低いのは意外です。

2,000円を超えている欧米の1人当たり所得は日本の倍くらいであり、最低賃金が高くなれば所得が高くなることが分かります。同時にそれらに比例して物価も高くなります。要するに欧米では日本の約2倍の賃金・所得・物価水準の中(世界)で生活しているということになります。日本の場合、1990年頃のバルブ崩壊以来、賃金・所得・物価が低下した水準で生活して来ました。今より生活しやすかったと感じる人は多いと思います。これは何故かと言うと、経済は不振なのにドル円レートが90~110円と円高となっており、輸入物価が安くなっていたからです。これが2,3年前から140~160円の円安となり輸入物価が大幅に上昇しました。その結果か国内製品価格も上昇し、物価だけが3~10割上昇しました。これを賃金や給与を上げて追いかけていますが、賃金や給与は毎年せいぜい3~8%程度しか上がりませんから、国民の生活は苦しくなっています。

ではどうしたらよいかと言うと、最低賃金や企業の賃上げを物価や製品価格に転嫁する法律を作ればよいのです。例えば最低賃金が今年のように平均6.3%上がれば、各段階の製品価格を6.3%自動的に引き上げることとします。そうすれば最低賃金の引き上げは全てコストに反映できます。その結果理論的には物価も6.3%以上上がることになりますが、賃金(所得)も6.3%以上上がるため、生活水準は変わらないことになります。要するに欧米レベルまで生活水準(賃金・物価・所得の水準)を上げると言うことです。これにより輸入物価の影響を弱められます(輸入商品が安くなる・感じる)。現在最低賃金の引き上げに経営者側が反対するのは、これによるコストアップを製品やサービスに転嫁できないからであり、法律で転嫁することが義務付けられれば(仕入れ側はこれを理由に取引を拒否できない)反対する理由は無くなります。今後とも最低賃金を上げていくのならこういうことが必要となっています。