トランプとの関税合意書は国賊もの
9月5日訪米中の赤沢大臣は、トランプ大統領が発表した日本への25%の関税を15%引き下げるための条件を書いた合意書に署名したという報道です。この合意書で最も問題になるのは、日本が5,500億ドル(約80兆円)の対米投資を行うという合意ですが、その決定は日本が参加しない「投資委員会」が投資先を推薦して「米大統領が選定する」と明記されています。これに関連して米国側を代表して赤沢大臣と交渉し署名を行ったラトニック商務長官は、アラスカの天然ガスプロジェクトがその候補であり、この手続きに従ってトランプ大統領が決めれば日本が10兆円投資すると述べています。トランプ大統領はプロジェクトで上がった利益の10%が日本の取り分(90%はアメリカの取り分)だと述べており、こちらも合意書に明記されていると思われます。
約80兆円と言う金額は昨年の日本の対米貿易黒字約8兆円の10年分と考えられ、「この貿易黒字を解消しないのなら、その分を米国に投資せよ、投資先がないというなら我々が見つけてやる、日本は金さえ出せばよい」という意味合いと考えられます。しかしこの考え方は成り立ちません。今回関税が15%下がったとしても10%引き上げられることになり、今年の対米貿易黒字は半減してもおかしくありません。またこれに懲りた日本企業は今後対米輸出を減らす(他国への輸出を開拓する、米国で生産する)と考えられ、これでも対米貿易黒字は減少します。この結果10年後には対米黒字は解消していてもおかしくなく、今後10年間の対米黒字は80兆円なんかにはなり得ず、半分の40兆円も難しいかも知れません。これなら関税引き上げで利益が減る企業に補助金を出した方がましです。このように80兆円の投資額は赤沢大臣がビジネスマン出身のラトニック商務長官に丸め込まれたものであり、これに合意し書面にするなど馬鹿げています。80兆円の資金は特別会計から出るにしても税金で担保されており、米国の一存で支出が決まる手続きは日本の主権を侵害します。
大統領権限で関税を決められるかについては、米国連邦高裁が違憲と判断しており、最高裁で最終判断が決まる予定です。トランプ大統領は「違憲ならこれまでのEUや日本などと結んだ合意が無効となり、米国は多大な利益を失うことになる」と連邦最高裁を恫喝しています。FRBがトランプ大統領の利下げ要求に対して独立性を守り利下げ決定をしていないのを見れば、連邦最高裁も司法の独立性を守るために連邦高裁の違憲の判断を支持する可能性が高いように思われます。
ならば赤沢大臣は合意書を急がず、様子を見るのが賢明な判断でした。なのに9月8日に合意書を結んだのは、石破首相の退任表明が迫っていたからだと思われます。これは日本国への背任行為であり、国賊とも言える行為です。