東大が京大にノーベル賞で敵わない訳

ノーベル賞の発表シーズンとなりました。日本の研究水準の低下が言われており、「日本人の受賞者はないな」と思っていたら2人も受賞しました。ノーベル生理学・医学賞を大阪大学の坂口志文特任教授が、同化学賞を京都大学の北川進特別教授が受賞しています。坂口教授は以前から名前が挙がっていたようですが、免疫分野の研究は地味であり一般の話題に上ることは少なく、ほとんどの国民にとっては初めて聞く名前だと思われます。坂口教授の受賞理由である制御性T細胞は、過剰な免疫応答を抑制するためのブレーキの役割を果たしています。アトピーやリュウマチなど免疫の過剰反応が引き起こす病気は多いことから、今後これらの治療に貢献すると思われます。坂口教授は大阪大学教授となっていますが、京大医学部卒で2007年まで京大再生医学研究所教授・所長を務めていますから、出身大学としては阪大枠というよりは京大枠に数えられます。ただし本人の意志で京大から阪大に移籍(56歳)していますので、京大よりも阪大に魅力があったことになります。阪大は山村雄一元医学部長(元総長)以来免疫研究に力を入れており、その門下生で身体に侵入した細菌やウイルスなどを排除するのに重要な働きをするインターロイキン6の発見で有名な岸本忠三元教授(元総長)もノーベル賞候補になっていました(まだ候補かも)。このような流れのもと岸本教授がセンター長を務めていた阪大免疫フロンティアセンターが基礎科学の研究推進を目的として2007年に始まった国の「トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」に採択され、年間7~14億円の研究資金を15年間貰えることになったことから、坂口教授の阪大移籍(招聘)が実現したようです。この経緯を考えると坂口教授のことを阪大が阪大初のノーベル賞受賞者とするのには理由があると思われます。

それでもノーベル賞受賞者出身大学の統計上は、坂口教授も京大枠となります。ノーベル化学賞を受賞した北川教授は都立大学などでも教鞭をとっていますが、京大工学部卒であり1998年から京大大学院工学研究科で研究を続けていますので、間違いなく京大枠になります。この結果日本の大学別でみたノーベル賞受賞者は京大10人、東大9人となり、京大がトップに立つと言うことです。東大の9人には文学賞(川端康成、大江健三郎)、平和賞(佐藤栄作)を含まれており、京大は科学系の賞のみであることから、科学系のノーベル賞受賞者では京大10人、東大6人となり京大が東大を4人上回る結果となります。

この理由は、東大は政治経済の中心東京にあることから、東大の研究者は政治家や官僚、経済人から意見を求められることが多く、常に現在話題になっているテーマを研究せざるを得ず、ノーベル賞のような未知の分野を研究できないのに対して、京大はそのような雑用は東大に任せ、好きな研究に没頭できるからと言われています。

それと高校までの学力レースでは東大が1位、京大2位なのは明らかであり、京大の研究者は東大の研究者と同じことをしていたら勝ち目はなく、その結果誰もやっていない分野を研究するようになると思われます。ノーベル賞は世界初の発見や発明に対して授与されますから、東大と京大では研究のスタートで明らかな差(東大の研究者は米国や欧州で研究が始まっているが日本では最初となる研究を扱い、京大の研究者は世界でも日本でも誰もやっていない研究を扱う)があるように思われます。

私は現役時代ベンチャー投資をやっていてバイオや創薬分野の投資の種を探しに東大や京大の研究発表会に出席しましたが、そこで東大と京大の研究者の違いについて気付いたことがあります。東大の研究者のプレゼではこれでもかこれでもかとデータが詰まっています(欧米の研究成果と自分の研究成果)。まるで自己の優秀さを誇示するようでした。一方京大の研究者(有名な教授)のプレゼは細胞発生という未知の分野のこともあってスカスカでした(私が聞いたプレゼ)。いうなればオタマジャクシからカエルが生まれたという小学生の観察日記のような内容でした。そのため出席した研究者から仮説に基づく質問が出るのですが、その研究者の回答は「それはまだ実験で検証出来ていないので分かりません」「それもちょっと分からないですね」という「分からない」という言葉ばかりでした。この状態は「なんでも知っている」「答えられないことは恥ずかしい」と思っている多くの東大出身者には耐えられないと思われます。要するに「分からない」状態に耐えられない東大出身者は、ノーベル賞の対象である全く未知の分野の研究(分からない状態が10年、20年続く)には向いていないということです。従ってノーベル賞の受賞者は今後とも京大が東大を凌駕すると思われます。