ラピダスへの補助金は出資8社が返還すべき
11月10日高市内閣が設けた日本成長戦略会議の1回目が開催されました。この会議にはあらかじめ17の戦略分野が設定されおり、この会議において具体化していくことになります。17の戦略分野の1番目がAI・半導体となっているのは現在株式市場でAI関連株が沸き立っているのを見ると当然と言えます。しかしこの分野は日本が一番不得意な分野であり、有効な具体策が出てくるとは思えません。AIでは日本のプレイヤーは皆無であり、その原因はAI人材がいないことにあることから、結局具体策としては人材の養成しか出てきません。AI王国である米国では既にAIを本業とする企業がいくつか出てきており、人材と資金力の厚みが違います。成長性のある分野であることは間違いありませんが、勝算は薄いと思われます。
半導体については、自動車やエアコン、モーターなどに不可欠であることから、これらが国内で調達できないとなると競争上不利となります。そのため多額の補助金を出して台湾TSMCを熊本に誘致しました。TSMC熊本工場ではソニーの熊本工場で生産されるCMOSセンサー向けの半導体を生産しており、経済安全保障の見地から有益な補助金の支出と言えます。ただし半導体については「国内の半導体産業の競争力強化のため、先端・次世代半導体の設計・製造に関する技術 開発等を支援」と書いてあることから、ラピダスへの資金支援を念頭に置いているように思えます。もしそうだとすればラピダスへの取り組みを見直す時期に来ています。
ラピダスにはこれまで国から1兆7,225億円の補助金が拠出され、現在2nm半導体の試作に入っていると言われています。7月には試作に成功したと発表されましたが、ユーザーの評価は全く聞こえてきません。2nm半導体はTSMCでも生産しておらず(生産技術は完成していると言われている)、全く半導体の生産経験のないラピダスが大量生産できるとはちょっと思えません。技術導入しているIBMは2015年に半導体生産事業から撤退しており、TSMCに勝てる生産技術を有するとは考えられません。実際IBMは韓国サムスンやインテルでも技術支援していますが、上手く行っていません。
またラピダスが事業を開始した頃から事業環境が激変しています。トランプ政権が出来て米国企業が使う半導体は米国で生産するよう求めたため、TSMCはアリゾナに計画していた3つの先端半導体工場以外に6つの工場を米国に作ると表明しています。先端半導体のユーザーは米国企業が殆どであり、関税もあってラピダスがこれらの米国企業から先端半導体の受注をとる可能性の小さくなってしまいました。
これらを考えるラピダスは事業計画を修正する時期に来ているように思われます。先端半導体の受託生産事業で成功する目途は立たないことから、当面経産省(あるいは補助金の出し手であるNEDO)付属の半導体生産技術研究所とし、先端半導体の生産技術を蓄積することを目的とします。生産技術が蓄積されれば出番は必ずあります。
現在ラピダスには今後の運営資金を賄うため国が1,000億円出資し、民間からも同額程度の投資を集めることになっているようですが、大量生産技術の目途が立たないこと、および米国のユーザーがラピダスに委託するとは考えられないことから、事業の採算性の見通しが立たず、民間からの投資は集まらないようです。ならばラピダスの初期出資者8社が創設責任者として1,000億円出資すべきです。もし事業も止めるとすれば8社が1兆7,225億円の補助金を国に返済すべきです。経産省に頼まれ国の補助金の受け皿を作っただけと言う言い訳は通じません。