値上げによる販売数量減少で企業業績が悪化へ

内閣府が11月17日発表した2025年7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値は、実質で前期比0.4%減、年率換算で1.8%減となりました。6四半期ぶりにマイナスとなっています。

不動産経済研究所が10月20日に発表した10月の首都圏の新築マンションの発売戸数は、前年同月比28%減の1,316戸、販売価格は7%上昇の9,895万となっています。このため一般家計では購入を手控える動きが広がっているようです。

建設コンサルティングの英ターナー&タウンゼントが11月25日発表した2025年世界の都市別データセンターの建設コストでは、東京が1ワットあたり15.2ドルと世界で最も高くなっています。このため「マレーシアやインドなど他国で建てた方が利益がでると考える事業者もいる。このままでは建設コストが高すぎてプロジェクトを止める動きが増えていくだろう」という見方をされています。

このような経済の悪化傾向は私が住んでいる福岡市でも分かります。福岡市は都市機能が揃っている割には住宅が安い町として有名でしたが、ここ2,3年で急激に上昇し、天神から5km圏のマンション価格は3,000万円台から5,000万円台に高騰しています。これでも東京と比べるとまだ割安として東京の大手不動産会社が進出し、高級物件の供給を増やしています。福岡市は大手企業が少なく、家計の収入は東京の平均6~7割程度です。これでは5,000万円台のマンションは買えません(福岡市は土地が少なく1戸建ての供給は少ない)。そのため郊外のマンションや一戸建てを買う人が増え、これまで30~40分が多かった通勤時間が1時間程度に伸びることになります。まだ飲食は東京よりかなり安いですが、食品は全国一律に上がることから飲食の値上がりも予想され、福岡市はもう一般市民にとって住みやすい都市とは言えなくなります。これにより170万人を目指している福岡市の人口の伸びが止まると予想されます。

ここ2,3年の物価上昇は売上増加をもたらし、企業業績にプラスに働きましたが、反転期に差し掛かったようです。GDPには名目と実質がありますが、内閣府の発表を見れば分かるように、実質が減少に転じています。名目GDPには商品価格の上昇が強く反映されますが、実質GDPには販売数量の減少が強く反映されます。実質GDPがマイナスになったということは、値上げ効果が販売数量減少効果を上回る状態から、販売個数減少効果が値上げ効果を上回る状態に転換したということです。これは米をみればよく分かります。国産米の値段は昨年から2倍になりましたが、最近まで消費者は習慣から高い米を買い続けてきましたが、最近は輸入米やパン、麺などにシフトし、国産米の販売量が激減しています(4割くらい減っている)。それでも米の価格が倍以上になっていることから、米の売上高としては昨年を上回っています(名目売上高はプラス)。米の売上高が昨年の半分以下(700万トン→350万トン)になれば実質売上高がマイナスに転じることになります。たぶん来年の6月頃にはこの状態になると思われます。

このような状態が多くの商品分野で現れます。マンション、一戸建て住宅では材料費、人件費とも1.5倍以上に上昇していますから、これらの販売価格は値下がりするはずがなく、販売戸数が大きく落ち込みます。これによる売上減少をカバーするための値上げは困難となっており、不動産業者の売上減少、利益の減少が表面化します。これはメーカーでも同じであり、材料費や人件費の上昇によるコストアップをこれまでのように販売価格に転嫁すれば販数量が減り、売上げが減少する状態になっています。円安による輸出の増加も国内生産コストの上昇で打ち消されており、輸出価格競争力がないか、輸出しても利益が出ない状況となっています。

これらから原材料を仕入れて加工する産業は今後売上や利益が減少する局面となります。その結果始まるのが大規模なリストラです。