孫社長の娘である出自より孫社長の債務保証でしょう

山形県のバイオベンチャーSpiber(スパイバー)は12月23日、プレスリリースでソフトバンクグループ孫会長の長女である川名麻耶氏(以下川名氏)と事業支援契約を締結したことを発表しました。同時に川名氏は孫社長の長女であることを公表しました。出自を公表した理由について川名氏は

「このたび、本来的には不要な、自身の出自を公表することに致しましたのは、企業売却やIPOといった短期的なキャピタルゲインを前提とせず、世界のバイオベンチャーシーンを代表する企業として育て上げるための本質的な取り組みに集中できる立場であること、そして、そのための意思決定を迅速に行える環境にあることを、明確にお伝えするためです。」

と述べていますが、意味不明です。

Spiberは微生物に人工的に設計したタンパク質を作らせ、これを線維として利用する企業で、資本金は9,000万円となっていますが、資本準備金が712億円あることから、これまで700億円を超える増資をし、その後減資をしていることが分かります。これに対して24年12月期業績は営業収益4億1,400万円に対し、営業損失が48億9,000万円、純損失は295億円となっています。純損失がここまで膨らんだのは、米国で建設中の工場の資材高騰や工期遅れで減損を280億円計上したためとなっていますが、工場の建設費を回収するだけの売上が見込めないことことが本当の理由と考えられます。要するに需要がないところに大きな工場を作ったということです。この結果繰越損失が約590億円となっています。決算公告に「25年12月28日に到来する金銭消費貸借契約について、返済資金の確保に疑念が生じており、継続企業の前提に重要な疑義を感じさせる事象又は状況が存在しております」と注記があり、監査法人が企業の継続性に疑義があると表明しています。

2022年6月末株主は

KISCO 12.16%

海外需要開拓支援以降(クールジャパン)11.73%

Acher Daniels 7.93%

CJP SEIX 7.48%

ゴールドウィン6.31%

東京センチュリーリース 6.01%

関山和彦 5.48%

小島プレス工業 5.39%

菅原潤一 4.31%

となっていますが、最大株主はクールジャパンで140億円出資、米国カーライルも100億円出資しているとの情報もあり、2022年以降増資があっているようです。

KISCOは大阪に本社がある中堅化学品専門商社のようです。クールジャパンは安倍首相時代に経産省と電通が中心となった作られた官民法人で、中小企業の輸出を促進するために出資や資金支援を行っていますが、出資は殆ど損失化しており問題となっています。クールジャパンから2名の社外取締役が入っており、Spiberはクールジャパンの管理下にあると言えます。東京センチュリーリースはみずほ系のリース会社ですが、リース会社がこの段階で出資しているのは見たことがありません。この中に民間VCが入っていないことから、VCの評価は低かった(成功するとは考えられなかった)ことが伺えます。

私もVCに居たのですが、この事業が成功する可能性は0です。Spiberのタンパク質線維の原料であるタンパク質は微生物培養で作るようなので、生産、精製、線維化に高コストがかかることは容易に予想できます。そうだとすればタンパク質線維は高価になると思われ、用途が限られ大きな事業になる可能性は小さいと考えられます。微生物にタンパク質を作らせる技術は東洋紡や東レなど繊維系大企業も持っていますが、利用しているのは医薬品向けです。そうでないとコスト高で採算が合いません。これらは調べればすぐ分かることであり、Spiber創業者および投資家は呆れるレベルです。

12月28日が362億円の借入金(事業価値証券化などにより調達)の返済日になっており、今回川名氏の登場で返済が先送りになったと言われていますが、返済が免除になったわけではなく、今後再建に向け債務免除が話われることになります。資本金が現在9,000万円であることから既に原資を行っており、累積損失590億円を資本準備金712億円で消し(累積損失0,資本準備金122億円となる)、株式の大部分を川名氏が購入する(最大9,000万円)ことが考えられます。問題は362億円の借入金で、孫社長が娘のために肩代わりする、または債務保証するとは考えられず、川名氏が出自を明らかにした意味が分かりません。川名氏が孫社長の娘であることは事実のようなので、孫社長資産の相続権があることは明らかであり、相続資産が担保だという意味かも知れません。孫社長としてはとんだ迷惑だと思われます。例え債権放棄が実現しても新規の資金投入(数十億円~数百億円)が必要であり、川辺氏にそれだけの資力があるのか疑問があります。

この会社の再建は誰であっても不可能であり、川名氏が相続財産を継ぎこんでも事業を軌道に乗せることはできません。再建に関する話し合いの中で合意に至らなかったということで川辺氏は手を引き、Spiberは清算するか、どこかに安く売却されることになると予想します。

川名氏とSpiberの関山社長、菅原氏(共に慶応SFC環境情報学部出身)は慶応幼稚舎からの同窓のようですが、こういう関係は投資判断を濁らせます。Spiberへの巨額の出資もこの関係で実現したものが多いと予想されます。富裕家出身の慶応OBはベンチャー事業には不向きですし、慶大でもSFC(湘南藤沢キャンパス)出身者はほぼコネ入学(表面上は推薦入学)であり、慶大本学(三田キャンパス)出身者とは似て非なる存在です。Spiberのような科学系ベンチャーは基礎研究が盛んでない慶大OBには手に負えません。