トヨタの社長交代は事業承継対策の一環

2月6日、トヨタで社長交代が発表されました。現佐藤恒治社長は2023年4月就任なので3年の任期です。佐藤社長はまだ56歳であり、新社長の近健太氏は1歳上の57歳なので年齢的な理由ではありません。では業績不振が理由かというと2027年3月期(予想)は、純利益は3兆5,700億円と25%減ですが、売上高は50兆円、販売台数は1,050万台と過去最高となっていますので、違うと思われます。純利益の減少は米国関税引き上げの影響が大きく、佐藤社長の責任にすることはできません。

ではなぜここで交代かというと豊田家の事業承継対策の一環です。来季事業承継対策の1つとして豊田自動織機の非公開化(上場廃止)が行われます。豊田自動織機はトヨタの源流企業であり、トヨタは豊田自動織機の自動車部として生まれました。その結果豊田自動織機はトヨタグループ企業の持株会社的な役割も持っています(トヨタ9.14%、トヨタ不動産19.43%、豊田通商11.18%、デンソー5.59%、アイシン3.06%)。豊田自動織機株式はこれらの会社で多くを保有(トヨタ24.59%、トヨタ不動産5.42%、豊田通商5.07%、デンソー4.92%、アイシン2.18%)していますから、TOBによる残株式の買収は容易です。非公開化はトヨタが7,060億円とトヨタ不動産が1,765億円を出資して特別目的会社(SPC)を設立し、その他必要資金(約3兆円)を銀行から借り入れトヨタ保有分以外の豊田自動織機株式を取得するとなっています。SPCには豊田家も出資し、豊田自動織機=豊田家支配となるような資本構成に移行するものと思われます。

これが分かると豊田自動織機の非公開化は豊田家の事業承継対策であることが分かります。これを成し遂げるには資本政策に通じた社長が必要であり、近氏の就任となったと思われます。

2つ目は、豊田章男会長の長男であり現在トヨタに在籍する大輔氏の社長就任路線を敷くためです。近氏は2023年4月にトヨタ取締役執行役員副社長を退任後、トヨタの先進IT利用技術開発会社であるウーブン・バイ・トヨタの代表取締役に就任しています。ウーブン・バイ・トヨタには豊田会長の長男である大輔氏がバイスプレジデントとして在籍しており、近氏とは上司と部下の関係にあったことから、大輔氏の社長就任路線敷設を近氏に委ねたように思われます。

尚今回の交代には、佐藤社長がトヨタの社長として力不足という豊田会長の評価もあると思われます。それは佐藤社長が経営者になるための十分な訓練を受けていなかったことから来る当然の帰結です。佐藤社長の経歴を見ると開発部門一筋であり、特にレクサスの開発で実績を上げたようです。自動車会社の経営者を見ると開発部門出身者は成功していません。例えばロータリーエンジンの開発成功でマツダの社長となった山本健一氏も3年で社長を退任しています。開発の仕事は創造性が重要ですが、経営ではそれが邪魔になります。経営の仕事は定石が8割であり、先ずは判断ミスをしないことが重要です。これに対して開発は9回失敗しても最後の1回で成功すれば評価されます。これが開発部門出身者が名経営者になれない理由です。佐藤社長は山本氏のような創造的開発者ではありませんが、新しい物を作ることを目指してやってきた人であり、同類です。従って豊田社長が佐藤氏を社長に任命した時点で今回のような結末は見えていたと言えます。

近氏はトヨタ社長に相応しい人物のように思われます。近氏の経歴を見ると2022年4月取締役執行役員副社長に就任しており、社長候補の1人だったことが伺えます。当時自動車業界は電気自動車への取組み方で社運が決まる状態だったことから、豊田会長としては技術者でありレクサスの開発で実績を上げている佐藤氏を社長に選んだと考えられます。しかし電気自動車については普及が遅れそうなことが判明したことから大きな経営上の課題ではなくなりました。そうなると社長は佐藤氏である必要は無くなります。来季の課題である豊田自動織機の非公開化については資本政策が焦点となりますが、佐藤社長では明らかに力不足です。資本政策を自ら練り上げることはできないし、銀行や証券会社から出てきた提案を判断することも出来ません。それが出来るのが近氏だったと言うことになります。

近氏の経歴を見ると経理財務が長いですが、不思議なことに2019年には先進技術カンパニーも担当していますし、2022年にはトヨタテクニカルデベロップメント取締役を兼務しています。2023年4月にトヨタ取締役執行役員副社長を退任後はトヨタの先進IT利用技術開発会社であるウーブン・バイ・トヨタの代表取締役に就任しています。財務マンであるにも関わらず自動車の未来技術を知る地位に就いています。これは今回の社長就任に繋がる人事のように思われます。

豊田会長が近氏を新社長に決めるきっかけとなったのは、日野自動車と三菱ふそうトラックの統合を見事に処理したことではないかと思われます。近氏は2021年に日野自動車取締役を兼務していますが、日野自動車の認証不正が明かになったのは2022年3月であり、近氏はこの問題の処理に関与しています。これにより日野自動車は大赤字となり存続も危ぶまれる事態となりましたから、資金繰りや財務の立て直しが重要な課題でした。これに手腕を発揮したのが近氏と考えられます。また三菱ふそうトラックとの統合が昨年6月に正式決定しましたが、日野自動車の赤字が当初合意時点より大幅に膨らんだ(約2,000億円)ことから、合意内容の見直しが必要となりました。このままだとダイムラートラックの出資割合が大幅に増えるので、トヨタが増資で日野自動車の資本減少を補填することや累積損失を解消することが必要となりました。その結果考え出されたのがトヨタによる2,000億円の増資と日野自動車羽村工場のトヨタ移管(1,500億円で売却)でした。2,000億円の増資は定石通りですが、羽村工場のトヨタ移管は驚きです。羽村工場ではトヨタにOEMしている2-3トラックとトヨタのランドクルーザーなどを生産しており、トヨタにとって収益性が高く、購入代金や増資資金などは10年で回収できると思われます。この取引が成立したのは、ダイムラートラックが何としても日野自動車との統合を実現したかったらだと思われますが、この取引をトヨタ側で進めたのが近氏であり、これが豊田会長に評価され、今回の社長就任に繋がったように思われます。