シニア企業ラピダスへ1,600億円の奉加金
2月5日の日経の報道によると、先端半導体の国産化を目指すラピダスへの民間出資額が合計1,600億円超となる見通しとなったということです。既存株主が追加出資するほか、キヤノン、ホンダ、富士通、富士フイルムホールディングス、IBMなどが新たに出資し、株主数は30社以上になるということです。この結果、ソフトバンクとソニーがそれぞれ210億円を出資する最大の企業株主となるとしています。
これを見て分かることは、日本では奉加帳方式がまだ通用していることです。ラビダスには5兆円以上の資金が必要となると言われており、1,600億円なんか端金です。本当に成功できると判断するのならこの10倍の出資が必要です。1,600億円を30社で割ると1社あたり約50億円であり、腰が引けているのが分かります。どこも成功できるとは考えておらず、お付き合い出資であることが伺えます。日本でも国際的優良企業は選択と集中を進めていますので、お付き合い出資には応じません。例えば日立や三菱電機、パナソニックなどは選択と集中を進め、リストラを盛んに行っていますから、こんな出資はできません。こんな出資を行う会社が30社以上もあると言うことは、日本の産業界の意思決定システムがまだ江戸時代並みということを現しています。TSMCやサムスン電子は毎年半導体の開発や生産設備に数兆円投資し、失敗したら経営危機になることから、検討スタッフや経営幹部は命懸けです。今回奉加帳に名を連ねた企業にはこんな緊張感はなく、日本の半導体が世界に太刀打ちできるわけがありません。
今回出資する各社は、東会長が76歳、小池社長が74歳という経営体制をどう評価しているのでしょうか?多くの会社では役員定年65歳であり、社長、会長でも68歳までとなっています。それは経営という激務に耐えられるのはこれくらいの年齢までと言う経験則からきています。普通ならこんな高齢経営者の会社に投資するという判断はありえません。(東会長の出身母体である東京エレクトロン、小池社長の日立が出資しないのは当然と言える。清水専務出身母体である富士通が出資するのは、半導体子会社を整理した結果多くの技術者がラピダスに転職したことによる。TSMCの熊本子会社JASMに出資するソニーが出資するのは意味不明)。
そもそもラピダスが成功できると判断するのであれば、ソニー、富士通、IBMなどは単独で事業に乗り出した方が成功します。これだけ出資者が多いと事業主体が不明であり、意思決定に時間がかかります。どこも単独で事業に乗り出さないのは成功できないと考えているからです。
東会長は半導体製造経験がありません(営業畑出身)し、小池社長は半導体の開発製造経験があるようですが、ノウハウがあるのは数百nm半導体までです。清水専務は富士通でロジック半導体開発と製造経験があるようですが、富士通時代に製造していたのは45nmまでのようです(それより微細な半導体はTSMCに製造を委託)。要するにはラピダスの日本人経営者には45nm以降の半導体の製造ノウハウを持つ人はいないことになります。これを2021年5月に2nm半導体チップの試作に成功したIBMの技術で補う計画のようですが、IBMは2014年に半導体製造部門をグローバルファンドリーズ社に譲渡し、半導体製造事業から全面的に撤退しており製造技術は持ち合わせていません。そのためインテルやTSMC、サムスン電子に2nm試作チップを提供し、製造技術の共同開発を行いましたが、いずれも上手く行っていません。その後各社は独自設計で2nm半導体の製造技術を確立しています。これを見るとIBMの2nm半導体は製造しにくい設計になっていると思われます。TSMCがいち早く2nm半導体の製造技術を確立できたのは、委託先と製造可能な設計に修正したからのように思われます。ようするに先端半導体の設計には製造企業との連携が欠かせないということです。そんなIBMにすがったのがラピダスです。ラピダスは先端半導体の製造経験がありませんから、IBMの設計図に製造の視点から修正を加える(提案する)ことはできません。その結果遇直にIBMの設計図通りに作ろうとすることになります。インテル、TSMC、サムスン電子のように見切りを付けることはできないと考えられます。だからいつまでたっても大量製造技術の確立は不可能です。それを見越しラピダスは小ロットの注文を短期間で製造する事業モデルを目指すようですが、先端半導体製造の肝であるEUV露光装置は調整が難しく、小ロットでは採算に合いません(チップの価格が高額になるし売上が大きくならない)。こんなことは今回出資する企業なら分かっているはずですから、出資はやっぱり奉賀金(寄付)としか思えません。
TSMCは2月4日熊本第2工場に3nmの製造設備を導入すると発表しました。3nmラインは台湾でフル稼働しているばかりでなく、米国アリゾナ工場でも稼働しており、成功間違いないプロジェクトです。ラピダスの奉加帳に名を連ねた企業はJASMへの出資に切り変えた方が賢明です。