ラピダスはキャノンナノプリントで勝負すべき

3月3日日経が「先端半導体の量産を目指すラピダスがキャノンとカメラなどに使う画像処理用の半導体を共同開発する。国内の大手需要家が顧客候補になるのは初めて。経済産業省も開発費の一部を支援し、ラピダスの課題だった顧客開拓を後押しする。実績を積み上げ、国内企業にラピダスとの連携を促す。」「両社は回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの画像処理用チップを共同開発し、ラピダスの北海道千歳市の工場で試作する。」と報じました。これはラピダスに大きな戦略転換があったことを示唆しています。

どういう戦略の転換かというと先端半導体の製造にTSMCやサムスン電子、インテルで使われているオランダASML社の極端紫外線(EUV)露光装置を使うのではなく、キャノンのナノプリントリソグラフィー(ナノプリント)技術を使うことを考え始めたということです。現在量産されている先端半導体は3nmで、TSMCが1社独占供給状態です。サムスン電子も量産に漕ぎ就いているようですが、歩留まりが悪い(TSMC60%程度に対しサムスン電子30%程度)と言われています。2nm半導体については、TSMCの台湾工場に量産に成功していると言われていますが、まだ需要が広がっていないようです。先端半導体の製造ではEUV露光装置を如何に使いこなせるかが勝負となっており、TSMCにはノウハウが蓄積していることが伺えます。これからラピダスがEUV露光装置を使った生産でTSMCに追いつくのは不可能と言えるくらい差がついています。先端半導体の顧客はエヌビデア、アップルなど殆どが米国企業ですが、TSMCの台湾工場と米国アリゾナ工場で生産し納入しています。今年2月5日TSMCの魏哲家社長が高市首相と面会し、JASMの熊本第2工場でも3nm半導体を生産すると表明しました。日本には現在3nm半導体を大量に使用する企業はありませんが、今後に備えラピダスに先手を打った動きとも考えられます。ラピダスが生産を目指す2nm半導体はまだ用途が拡大しておらず、当面需要の中心は3nmになると言われていますので、TSMCが熊本第2工場で2nmではなく3nm半導体を生産することは実利的と言えます。

ラピダスの2nm半導体生産の進捗状況については、昨年7月試作に成功したと報道されましたが、これは技術導入しているIBMの試作品を真似て試作できたということと考えられます。IBMは2021年6月に2nm半導体の試作に成功したと発表しましたが、2014年に半導体製造事業を全部グローバルファンドリ―社譲渡しており、製造を目指して試作したものではありません。そのためIBMが共同開発を持ちかけたTSMCやサムスン電子、インテルでは上手く行きませんでした。たぶん学術的にはよくできていたと思われますが、製造のことが考えられておらず、製造しにくい設計になっているものと考えられます。そうだとすればラピダスが大量生産するのは容易でないことが分かります。それに先端半導体の生産ではEUV露光装置への習熟度が重要であり、TSMCとラピダスでは大人と子供の差があると思われます。従ってこれからラピダスがEUV露光装置でTSMCに挑むのは勝ち目のない戦いと言えます。

そこでラピダスが一発逆転を狙うとすればキャノンが開発を進めるナノプリント技術を使うことです。これは回路パターンを刻み込んだマスク(型番)をウェハー上に塗布されたレジストに押し当てて半導体チップを作る方法です。活版印刷に似ています。活版印刷を考えれば分かるように、この方法では、微細なマスクの製作、レジストを均一に塗布する(インク滲みを防ぐ)、何段にも正確に重ね合わせる、固まったレジストが破損しないようにマスクを離すことなど難しい技術が多く、マスクを大量に消費します。キャノンでは2023年11月に5nmレベルの半導体を生産可能なナノプリント製造装置を発売し、TIE(米国テキサス州にある半導体コンソーシアム)などで評価が行われています。マスクについては大日本印刷が2025年1月に2nmマスクの製作に成功し、2027年には供給を開始すると発表していますし、キャノンもこれに合わせ2nmナノプリント製造装置の発売を予定していています。

TSMCはEUV露光装置で2nm半導体の生産を開始していますので飛び付くことは無いでしょうが、TSMCに後れをとったサムスン電子やインテルは一発逆転を狙って評価を進めていると予想されます。この技術は開発途上ですが、キャノン、大日本印刷など日本の半導体製造装置メーカーや素材メーカーが協力して開発しており、ラピダスで実用化を進める価値があります。

キャノンのナノプリント技術を使って先端半導体の生産を目指すことこそがラピダスの生きる道です。