退官後に見返りを得る方式が官僚悪事の主流
最近は官僚の不祥事が多発しています。財務省の文書改ざん事件から文部官僚の贈収賄と氷山の一角のような様相です。文書改ざん事件は不起訴処分でしたが、実質的には起訴すべき事件でありながら、政府官邸の圧力で不起訴になったものでした。検察審査会で起訴相当の判断がなされるはずです。文部科学官僚の贈収賄事件は、なんとも恥ずかしい事件です。1人は文部省補助事業に取り上げるべく努力する代わりに、息子を贈賄側の大学医学部に入学させるという取引であり、もう1人は、多額の飲食を伴う接待を受け、便宜を図ったと言われています。文部科学省では少し前、組織ぐるみで再就職を斡旋していた不祥事が明らかになっています。
これらの不祥事は、発生した背景を異にします。財務省の文書改ざん事件は、官邸の人事権が強まった結果起こったものです。首相秘書官や大臣秘書官、内閣府幹部など官邸に呼ばれた官僚が出世する現実を見た官僚が首相や大臣などの政府側に忠誠を見せることによって、出世を図ろうとしたものです。また首相や大臣がこれを煽りました。
文部科学省の不祥事は、文部科学省独自のものではなく、どこの官庁にもあるものであり、文部科学省としては「なんでうちだけ」という意識ではないでしょうか。この種の事件は、官庁が補助金を出す限り無くならないと思われます。官僚個人の規範意識やモラルが不祥を防止する拠り所となるものです。
今回の贈収賄事件は、現職官僚の収賄であり、刑事事件として立件できるのですが、問題は、官庁在籍中に便宜を与え、退職後にお返しを得る場合です。今はこちらの方が遥かに多いと思われます。かつ露骨に行われ、お返しが巨額になっています。これは、刑法上の贈収賄罪は主に在職中の収賄と便宜の供与を想定しており、退官後の収賄となると立件が難しいのです。しかし、これを立件しないと実質的な官僚の不正は増大するばかりです。
今最もこれが疑われるのは、総務省の携帯電話行政です。携帯電話3社は、2018年3月決算で、約13兆円の売上高、約2兆6000億円の営業利益をあげています。営業利益率はなんと約20%になります。携帯電話事業は国民の電波を使った公益事業です。生活のために不可欠なライフライン事業です。従って、安価に提供する使命があります。携帯電話事業はこれに反して国民収奪事業化しています。公益事業の代表は電力事業ですが、電力9社の2018年3月期決算は、売上高約19兆円、営業利益約9800億円、営業利益率約5%です。これと比較すれば携帯電話事業が公益事業の使命を逸脱していることがよく分かります。
携帯電話会社のある首脳は、「我々は総務省の決めたことに従って事業をやっているだけ」と述べているように、携帯電話3社のこの儲け過ぎの仕組みは総務省が作り上げたものです。監督官庁が儲かる仕組みを作ってくれるのですから、携帯電話3社にとって総務省は何物にも代えがたい有難い存在です。しかし、携帯電話3社の売上高約13兆円というお金は、家計から吸い上げられているのです。家計が持つお金は限られていますから、これだけのお金が吸い上げられるとその他の支出を削る必要があります。食費や新聞代などが削られている結果、スーパーの売上が伸びず、ビールの売上がマイナスになり、新聞の販売部数が減少するなどのことが起きているのです。前回消費税引き上げが見送られたのもこの影響が大です。
携帯電話事業の弊害がこれだけ明らかになると、普通なら通常の公益事業のレベルまで一挙に下げさせるものですが、総務省にそういう動きは全くありません。たまに行政指導と称して何か言っていますが、その結果出てくる携帯電話3社の施策は、更に収益構造を厚くするものです。総務省は本気で携帯事業の儲け過ぎを改めさせる気がないのです。
なぜこういうことになっているのでしょうか。それは、総務省の携帯電話行政を担当した官僚には、退官後この高収益構造を作ってくれたお返しが待っているからです。再就職先が用意され両手を広げて迎えられます。これだけの高収益の仕組みを作ってくれた総務省の担当官僚に支払う給料などは安いものです。とくに総務省の携帯電話行政の中枢にいた幹部官僚になると、本来なら携帯電話3社の役員に迎えて、数十億円の報酬を払ってもよいところです。しかし、それは世間の目があり出来ないので、携帯電話3社から巨額の資金が流れる取引先企業に天下ることになります。総務省の幹部は普通自治体関連の団体に天下りますが、総務省で携帯電話行政に従事してきた官僚は放送・通信関連企業に天下っています。
これは、総務省時代に携帯電話3社の高収益の仕組みを作ってくれたお礼です。即ち、事後収賄と言える天下りなのです。そして更にIPO株の割当などで巨額の報酬が支払われると思われます。これを取り締まらない限り、携帯電話による家計収奪はなくならないし、官僚の悪事はなくなりません。