携帯電話3社、非通信分野の強化は早くから描いていた戦略

10月29日の日経電子版に「ドコモ値下げへ、決済など非通信に重点」という記事が出ていました。これは携帯電話3社が早くから描いていた戦略です。総務省が携帯電話で予想外の高収益システムを作ってくれたため、それに安住していただけです。携帯電話は国民全体のライフラインとなっており、利用者には低所得者が多数います。従って、携帯電話料金が低所得者に負担にならないものにする必要があるのは、公益事業として当たり前のことです。ところが監督官庁である総務省は、携帯電話3社の保護育成ばかり考え、このことをすっかり忘れていたのです。その結果、携帯電話料金が家計を圧迫してきました。所得が増加しない中での出来事ですから、家計はその他の支出を削って対応するしかありません。そこで削られたのが食費や衣類、新聞、ビールなどへの支出でした。これらは、軒並み売上を落としています。

携帯電話3社もこれには後ろめたい感情をもっていたと思います。社員の中には、縛り契約などの反社会的な契約内容に「ちょっとな」という思いを持っている人も多いと思います。それでも監督官庁である総務省が主体的に作り出してくれた高収益システムですから、携帯電話3社から止めましょうとは言えません。

こういう中で携帯電話3社は、この状態はいつまでも続かないことを見越し、非通信分野を強化してきました。一番熱心だったのはKDDIだったと思います。KDDIは、NECの子会社でインターネットプロバイダーのビッグローブや英会話会社イーオンを買収し、ラフネット生命やピアの株式を買い増したりして、非通信分野強化の布石を打ってきました。

一番遅れているのはソフトバンクでしょう。ソフトバンクはグループ本体としては投資会社の性格を強めており、国内通信事業は、そのためのキャッシュフローを生み出す役割と位置付けてきました。ソフトバンクの国内通信部門は、2018年3月期で売上高約2兆6,000億円、営業利益約6,800億円、営業利益率約20%でした。ここから生まれるキャッシュフローは約7,000億円あります。これを返済原資とすると10兆円から15兆円の借入が可能となります。ソフトバンクグループの借入(社債も含む)は約15兆円程度と言われており、アリババなどの株式の含み益が担保となっていると言われていますが、実際は国内通信部門が生み出すキャッシュフローが返済原資として考慮されています。ソフトバンクは、この12月にも国内通信会社をIPOするそうですが、これは今後国内通信事業がこれまでのようなキャッシュフローを生み出さないことを見越し、今のうちにIPOで資金化した方が得と考えたものと思われます。確かにその通りなのです。ここらへんの機転は流石です。でも非通信分野の強化に出遅れた国内通信部門会社(ソフトバンク)は苦しい戦いが予想されます。将来的には、ヤフー・ジャパンとの合併を考えているのではないでしょうか。

いずれにしても、携帯電話3社が携帯電話料金を値下げし、非通信分野を強化することは当然の方向性です。

もう一つの方向は、富裕層の通信量の拡大を図ることです。携帯電話料金が問題にされているのは、低所得者(日本の家計の大部分)に対して負担が大きいからであり、富裕層からいくら取ろうと問題ではありません。携帯電話3社は、富裕層が沢山使うような通信需要を作り出せばよいのです。そうすれば全体の通信量はまだまだ増加していきます。これが本来の通信業界の進むべき方向です。