官民ファンドへの成功報酬制度の導入は当たり前
11月3日の朝日新聞電子版に「官民ファンド、外資も驚く高額報酬制度、問われる透明性」と言う記事がありました。全く的外れの記事です。
先ず、「外資も驚く」ような高額ではありません。官民ファンドとは産業革新投資機構(JIC)のことですが、報酬制度を見ると役員の場合、固定給1500万円、短期成功報酬4,000万円が上限、長期成功報酬7,000万円が上限となっています。最大でも1億2,500万円にしかなりません。外資のファンドでこんな報酬体系で役員を務めている人はいないと思います。固定給が最低数千万円、成功報酬に上限など設けていないと思います。成功報酬はもたらした利益から支払われるから、上限など設ける必要はないのです。また報酬の決めも極めて透明です。むしろ幼稚な報酬制度と言った方がよいと思います。これでは、外資系ファンドから実力のある人を経営陣に招くのは無理です。
記事では、経営陣の報酬を官庁の事務次官や日銀総裁などと比較していますが、仕事の内容が全く異なります。官僚の場合、稼ぎの目標はなく、報酬の支払い原資は税金で、身分が保証されているのだから、報酬に制限があるのは当たり前です。一方官民ファンドは、ファンドの原資は税金かも知れませんが、報酬の支払い原資は利益です。身分も保証されていません。従って、報酬に官僚のような制約を設ける必要は全くありません。それに仕事の質が全く違います。官民ファンドの場合、成功に導くための最大のモチベーションは報酬です。経営陣や担当者のたくさんの報酬を得たいと言うモチベーションしかありません。そのために、投資した会社をリストラし、採算のある事業に集中して、再生させるのです。これは「言うは易く、行うは難し」です。多くの場合、投資後リストラは必須ですが、この場合ファンドの担当者は、リストラ指示者として、投資先会社の経営陣や社員から嫌われます。リストラは、常に険悪な関係を作り出します。リストラされる社員から恨まれ、命を狙われる危険もあります。このようにファンド担当者の仕事は命がけなのです。従ってファンド担当者は、尋常な神経の持ち主では務まりません。闘争心が強くないとやって行けないのです。ファンド担当者として成功していている人の多くは、一般の社会生活では不適格者が多いのです。
このような仕事の性格上、成功した場合には、利益に応じた報酬が支払われるのは当然のことです。これがない限り、ファンドの経営陣や担当者が公務員化し、ファンドを成功に導くことはできません。また、成功報酬制度があったとしても、これにより高額な報酬を受けられる人はわずかです。多くの経営陣や担当者は、投資失敗の責任を負って、会社を追われることになります。ファンドに定年まで勤められる担当者は皆無と言ってよいと思います。
朝日の記事は、官民ファンドという言葉から、ファンドの仕事を公務員仕事のように考えているのではないでしょうか。観念的、表層的な記事だと思います。