水道民営化は、人口移動を加速する
政府は、今国会で水道事業の運営権を民間に委託することができることとする水道法改正案の成立を目指すという報道です。運営権の委託と言っていますが、実質的には水道水は民間企業から買うことにするものです。
なぜこういうことをするのかというと、人口減少で水道料金収入が減少する中で、古くなった浄水施設や水道管の更新費用が増大し、水道料金を大幅に上げない限り、運営できなくなるからです。ならば上げればいいではないかと思うと思いますが、そんな半端な上げ方では済まないからです。10年ごとに2倍、3倍と上がっていく感じだと思います。こうなると水道事業を運営する市町村は、住民に説明し納得してもらう必要がありますが、これが厄介だから今のうちに民間企業に委託して、水道事業から抜けようというわけです。水道事業の民営化の狙いはこれしかありません。
このような民営化の方式は、コンセッション方式と言われ、関西空港の例が有名ですが、これは空港には多数の乗降客があり、これを小売りや飲食に導くことができれば、収入を大きく伸ばすことができます。郊外に大きなショッピングモールを作る代わりに、飛行機の乗降客が集まる空港をショッピングモール化しようというわけです。これなら民間企業の知恵を使えば成功する可能性が高いと思います。
しかし、水道事業の場合、水を供給することしか収入の道がありません。民間企業といえども、その他の収入の道を作るのは不可能です。そこに人口減少で収入が減少するのが確実であり、浄水場設備の更新や水道管交換に多額の費用が掛かるという訳ですから、いくら民間企業でも対応は限られます。取り得る手段は、設備を格安で取得し、安い人件費で運営するくらいしかありません。しかしその効果は暫くでしかなく、後は人口減少による水道料収入の減少を補うために、水道料金を引き上げていくしかありません。これが公営であれば住民や議員の反発ですんなり実施できないところが、民間企業ならすんなり実施できます。もし嫌なら契約不成立で水を止めることになりますし、最悪事業停止、倒産と言うことになります。水がないと生活できないので、結局言いなりの料金の値上げで決着するしかありません。このようにコンセッション方式移行の狙いは、料金値上げの混乱を民間企業に押し付けることです。従って、水道民営化の話が具体化するのは、将来水道料金の大幅な引き上げが確実視される市町村です。大都市では具体化しないと思います。この結果、水道事業を民営化した市町村から都市への人口移動が起こります。地方の消滅に拍車がかかります。
水道事業の民営化を考える前に、公営水道がどうしたら成り立つかを考えるべきだと思います。人口が減少すれば、町の隅々まで水道管を張り巡らせている今の体制は維持できません。水道を供給するエリアを限定する必要が出てきます。既に公共施設を町の中心部に集中させ、住民にはその周辺に住んでもらおうとしている市町村があります。下水道については、町の中心部にしかなく、それ以外は浄化槽を設置することとしている市町村は多いと思います。これと同じように、水道も町の中心部などある程度人家がある所にしか供給しないことにし、それ以外は井戸や共同水道と浄水器で対応するようにします。こうすれば、水道コストは抑えられるのではないでしょうか。こうして公営で運営できる事業構造にすることが先決です。
今携帯電話3社の儲け過ぎが問題になっていますが、水は携帯電話以上に重要なライフラインですから、民営化したら過剰な営利主義に走る企業が必ず出てきます。水道事業を公営でやれない市町村は成り立ちません。水道事業は、市町村成立の生命線と考える必要があります。