ゴーン逮捕、本当の罪名は侮辱罪?

カルロス・ゴーン(以下ゴーン)が突如逮捕されて大騒ぎになっています。当然です。潰れそうな日産を再建して、経営の神様とあがめられてきた人が突然犯罪人になったのですから。

逮捕の理由は、有価証券報告書虚偽記載の金融商品取引法違反です。ゴーンの報酬額が虚偽だった(実際の額と違っていた)としても、会社の業績に大きな影響を及ぼすものではないので、報告書を訂正して終わりが普通です。ゴーンは、所得申告も偽っていれば、国税調査が入り、所得税法違反で重加算税処分を受け、経営者を退くことになり社会的制裁を受けることになります。これらを飛ばしていきなり検察が出てきて逮捕というのは例がないのでないでしょうか。例えば、同じ有価証券報告書虚偽記載では、東芝による粉飾決算の方が重大な事件でしたが、これは刑事事件になることはありませんでした。このアンバランスから分かるように、やはりゴーン逮捕の真因は別にあると考えるのが妥当です。

本件については、ルノーが日産を合併しようとしていたことから、これを潰すためという憶測もありますが、検察が合併阻止のために動くというのは考えられません。検察は、企業を巡る事件は、経営陣、株主、投資家で解決するものとして、関与しないのが普通ですし、ましてや今回は外交問題にも発展しかねない事件です。

報道によると、ゴーンは、5年間に50億円の報酬を隠すとともに、報酬としてストック・アプリエーション・ライト(SAR)という権利を保有し、5年間に40億円の利益を得たけれど、この存在を有価証券報告書に記載していなかったということです。有価証券報告書は、日産の担当部署が作成しますから、通常なら担当部署がうっかり記載を忘れたことにされますが、期間が5年間(実際はそれ以上)に渡っていること、他の役員は記載していること、および何度か証券取引等監視委員会から指摘があったが訂正しなかったことから、ゴーンが指示して記載しなかったと判断されたようです。記載していなかったと言うことは、所得の申告もしていなかったと思われますので、巨額の脱税にもなります。記載しなかった50億円の報酬については、日産役員退任後に分割で受け取る契約を日産と結んでいたと言うことですので、脱税にはならないと思われます。メジャーリーグではたまに聞きます。SARによる報酬については、現金で支払われていれば監査法人の監査などで見つかるので、ゴーンはSARを行使せず、報酬額のみ確定させ(従って日産からゴーンへの現金の支払いはしない)、その報酬相当額をゴーンの管理下にある海外の日産のペーパーカンパニーに送金し、その会社から報酬を得る(その会社がある国に納税する)、ペーパーカンパニーが住宅などの資産を取得し、ゴーンが使用するなどの形で所得を受け取っていたではないでしょうか。

ゴーンがこんなことをフランスのルノーでするかと考えると、しないと思われます。事実ルノーではこのような事実は確認されていません。ある意味、日産だから、日本だからできたことなのです。こう考えるとゴーンのこの行為は、日本という社会および国に対する侮辱とも考えられます。特に刑事事件では、実行者の主観、意図が重視されます。検察は、ゴーンと言う外国人が日本という社会を、国を侮辱したと考えたのかもしれません。

こう考えると、もう1つ気になることがありました。昨年日産では、完成車検査を無資格者が行っていたという検査不正問題が明るみに出ましたが、その際マスコミや官庁へ対応したのは西川社長で、ゴーンは全く表に出ませんでした。それまでは、日産には他に役員はいないのかというくらい会社としての社外対応はゴーンのみでした。それが検査不正の問題では、ゴンは我関せずの態度をとりました。ゴーンの公式の言い分としては、社長は西川氏なのだから、自分が表に出たら西川社長に失礼になるということでしょうが、実際のところは、日本の完成車検査制度の無意味さを嘲笑してのことと思われます。

確かに完成車検査制度は、輸出車には意味がなく(求める外国はない)国内出荷車にのみ意味がある(行わないと国交省が違反を問う)というおかしな制度であること、資格者が国家資格ではなく社内認定で決まることなど形骸化しており、廃止するのが筋の制度です。ゴーンにしてみれば、そんなことで謝罪できるか、日本人に任せておけ、と言うことだったと思われます。これは、ある意味、ルールはゴーンが決めると言うことであり、治外法権を連想させます。この態度に対して、日本の司法当局としては、独立国家として許しておけないという感情が生じたかも知れません。

このように、ゴーンの行為は、日本社会および日本と言う国を、ひいては日本人を侮辱しているとも取れるのです。これに対する懲罰と考えない限り、ゴーンの逮捕は理解できません。もちろん侮辱罪は刑法上最も刑が軽い罪(最大29日間の拘留・科料のみ)であり、ゴーンのような国際的に著名な経営者をこれで逮捕することはできません。あくまでこれが前提にあって、言われているような行為を犯罪行為として立件したということです。穿ち過ぎでしょうか?