青森山田高校が示すこれからの高校のあり方
1月14日に決勝戦が行われた全国高校サッカー選手権で青森山田高校が優勝しましたが、青森山田高校は別の面でも話題となりました。それは、登録された選手30名のうち青森出身者は1人しかおらず、残り29名は他の都道府県出身者だったことです。
これは、甲子園強豪校でもよく見られる現象です。最近では、熊本の秀岳館高校が同じような現象で、熊本県内で批判を浴びました。秀岳館高校は、NHKの高校野球解説で有名で、パナソニックの専務まで務めた鍛治舎巧氏が監督に就任し、甲子園に2年連続4回出場し、いずれも4強という全国強豪校となりました。それまで熊本勢は、甲子園に出ても1,2回戦敗退でしたから、その原因が注目を浴びました。秀岳館高校が一気に強くなった原因は、鍛治舎氏が大阪で指導していた中学生の硬式野球チーム枚方ボーイズの卒業生が大挙して入学してきたからでした。枚方ボーイズは、全国大会でも優勝する強豪校ですから、野球が上手い生徒が多かったのです。そのため、秀岳館は、彼らが入学してから2年目で、熊本では向かうところ敵なしの強豪校となりました。その結果、鍛治舎監督の指導を受けたい野球の上手い生徒が全国から集まってきました。そのため、熊本出身者はレギュラーにはいないという状況になったようです。
そこで、これまで熊本県内で強豪校だった高校のOBや父兄から、「大阪出身者が多数を占める秀岳館高校は大阪第二代表であり、熊本代表ではない。」などの批判が浴びせられるようになりました。これだけならまだよいのですが、試合中や見かけた選手にも批判を浴びせる人もいたようです。
こういう中で、テレビなどでは穏やかな語り口の鍛治舎監督も、本来持っている闘争心に火が付き、マスコミなどで熊本の高校野球の現状に厳しい批判を加えていました。私が読んだ中では、「熊本で野球をやっている優秀な中学生は、甲子園で優勝するために大阪などの野球強豪校に進学する。」「一方そうでない中学生は、甲子園に出るために熊本に残る。」と言っていたのが印象に残っています。さすがパナソニックで専務まで出世しただけのことはあって、分析も的確です。しかし、これがまた熊本の高校野球関係者を怒らせてしまいました。その結果、鍛治舎氏は追われるように熊本を去りました。その後熊本県勢は九州大会も勝ち抜けなくなりました。
熊本でも若者の人口減少により、高校の入学者数が減り続けています。熊本の場合、公立高校優位ですから、私立高校の生徒数の減少は著しく、経営的に苦しくなっている私立高校が多くなっています。その中で、秀岳館高校には、野球をやるために1学年約30人、3学年では100人を超える生徒が県外から入学していたようです。これは、生徒数確保に悩む私立高校に1つの解決策を示しています。即ち、全国区で戦えるような部活動、学科、コースを持てば、生徒は全国から集まるということです。秀岳館の野球部の場合でも、生徒1人当たり授業料および生活費が年間100万円程度かかるとして、約1億円のお金が熊本に落ちたことになります。現在、地方では、生徒数減少で経営的に成り立たなくなった私立大学を県や市が引き受け、公立大学に衣替えして若者を集めようとする動きがあります。こういう動きは、大学ばかりでなく、高校においても必要です。
熊本は、鍛治舎氏を追い出すことによって、秀岳館高校での生徒集めの成功例を放棄しました。青森山田高校の学習コースを見ると、特進コース、スポーツコース、吹奏楽コース、美術コース、演劇コースなど、生徒の能力や進みたい分野に応じたコースを用意しており、学生にとっても魅力的です。そもそも子供の持っている能力は多様であり、普通科偏重のコースでは子供の多様な能力を伸ばすことはできません。中学校や高校では、子供の多様な能力に応じた学習コースを準備してあげる必要があります。青森山田高校はこれを実現し、その結果サッカー部が全国大会優勝という結果を残しました。高校野球で春夏連覇した大阪桐蔭高校も、野球ばかりでなく、ラグビーなど他のスポーツも強いですし、進学や吹奏楽などでも素晴らしい実績を上げています。青森山田高校や大阪桐蔭高校は、これからの中学校や高校の教育のあり方を示していると思います