携帯電話のぼったくり手数料なぜ放置?

6月18日携帯料金引き下げのための総務省令が有識者会議で了承され、施行に向けた手続きに入ったようです。今回の総務省令の最大のポイントは、解約違約金9,500円を1,000円以下に引き下げたことです。この結果、携帯ユーザーの殆どが2年縛り契約を結び、解約違約金が9,500円となっていることから、解約など考えなかったところを考えるようになります。それでもこれまでは、2年縛り契約が縛りのない契約より月1,500円以上高くなっていたことから、縛りのない契約の選択肢は事実上ありませんでした。かつ、携帯キャリア3社がほぼ同じ料金体系を敷いていることから、他社に移るメリットもありませんでした。これは、3社寡占がもたらした弊害であり、公共料金については、こういう場合認可制を取るのが普通です。携帯電話の場合1995年に通信の自由化として、競争促進により料金低下を図ることを目的に認可制を廃止し、届け出制に移行しました。そして2004年に届け出制も廃止し、完全に自由に料金設定ができるようになりました。届け出制においても料金は自由に設定できたはずですが、それが低く抑えられていたのは、携帯各社に携帯料金は公共料金であり、自分らは公益企業であるというモラルがあったからと考えられます。

2005年以降このモラルが無くなり、利用者数は大幅に増加したにも関わらず料金は余り下げないようにして家計収奪が進むわけですが、それは2006年3月のソフトバンクによるボーダフォン買収が起点となったようです。この買収価格は1兆7,500億円と当時の日本では天文学的な金額でした。そのため、その後ソフトバンクはその借入金の多さから経営危機も噂されました。このような状況においてソフトバンクは、高収益化に向け邁進します。先ずは先行するドコモおよびKDDIより安い料金を設定してユーザーを奪うことでした。これによりシェアは上がりましたが、利益率は低くこれでは借入金の返済はなかなか進みません。そこでソフトバンクが次に仕掛けたのが競争ではなく協調でした。2社より安い価格を設定して2社のユーザーを奪うのではなく、3社が同じような料金および契約体系を採用し、シェアを維持して利益率を高める作戦です。これには高いシェアを持つ2社も異存ありません。シェアが落ちないばかりでなく、利益も増大するからです。こうして今の3社寡占による協調体制が出来上がりました。この結果、3社の営業利益は約3兆円、営業利益率約20%という高収益企業が3社も出来上がったのです。それを助けたのは、監督官庁の総務省でした。総務省の旧逓信省の流れを汲む担当部署にとっては、3社が儲かることは自分たちのことのようにうれしかったと思われます。こうして総務省と携帯3社は2人三脚で進んできたのです。そして本来なら寡占の弊害を取り除くためにある公正取引委員会が全く動かないことによってこの状態を公認したことになりました。

その結果、携帯3社はこれまでに家計から10兆円以上の超過利潤を収奪したと予想されます。そしてそれがどういう使われ方をしたかと言えば、ソフトバンクでは借入金の返済のほか、余った資金で数兆円に上る米国スプリントや英国アームの買収、10兆円ファンドの設立資金となったのです。即ち、日本の家計の資金が海外に流失したのです。おまけに最近の新聞報道でもあるようにソフトバンクは様々な税務処理を駆使し、できるだけ納税しないようにしています。ソフトバンクグループが日本に本社を置くのは、家計から現金を吸い上げる携帯電話事業を持つからです。これ以外の面では直ぐにでも本社を米国などに移したいくらいだと思います。このように携帯電話が家計収奪の手段と化した裏には、ソフトバンクがあり、そのリーダーを経営の神様のように崇める人たちがいることは残念でなりません。

少し脇道にそれましたが、携帯料金の認可制、届出制への移行は料金低下のために行われたものでした。しかし、競争が不十分な業界においては、これにより料金高騰を招く恐れがあることは十分認識されていました。携帯料金において現実にこれが起きたのですから、政府は、もっと早く逆の動きをすべきだったのです。先ずは届出制に戻し、それでも下がらないようであれば認可制に戻すことを機動的に行うべきだったのです。これをしなかったことから、家計が携帯3社に10兆円以上の資金を収奪される事態を招いたのです。

菅官房長官の4割値下げ発言の主旨は、家計の携帯料金の支払い額を4割減らし、認可制度を採用したレベルにまで落とせということです。携帯3社は、収入に余り影響がないタイプの料金を4割下げ、菅官房長官の要望に応えたように振舞っていますから悪質です。このまま携帯3社がこのような振る舞いを続けるなら、法律改正により認可制に戻すしかありません。

尚、今回の総務省令では、ぼったりと言われる代理店が徴収している手数料については触れられていません。携帯電話では、新規契約事務手数料、MNP転出手数料、機種変更手数料が徴収されますが、携帯3社は1件当たり3,000円で統一しています(ドコモはMNP転出手数料2,000円)。この事務はパソコンで5分もあれば済む内容です。明らかに携帯電話を人質に取ったぼったくりであり、カツアゲに等しいと思います。最低賃金1,000円への引上げを死活問題と考える中小企業が多い中で、このような不当な手数料は社会公平の観点からも許されません。

この件については、総務省と携帯3社の間で、解約手数料を9,500円から1,000円に下げる代わりに、これらの手数料は現状を維持するとの裏取引があるという話もあります。本件は、総務省が本気で携帯料金を下げようとしているかを見る試金石です。