低金利の有効期間切れは近い
6月21日の日経電子版に5月の消費者物価指数は前月より0.8%上昇し、上昇率は前月比0.1%下落したとありました。主因はスマートフォン端末の値下げなどで通信が4.1%低下したことだそうです。そして6月から携帯電話大手2社が通信料を下げており、物価は一段と伸び悩みそうだと書いています。
いつも思うのですが、アベノミクスが始まり、日銀が2%物価上昇を目標に金融緩和政策を打ち出してから、物価が上がること=良いこと、物価が下がること=悪いこと、となっています。果たしてそうでしょうか?この春も食品を中心に多くの商品の価格が値上げされましたが、値上げ幅は5~10%となっています。賃上げがせいぜい3%ですから、値上げ幅が賃上げ幅を大幅に上回っていることが分かります。これは当然のことです。値上げにより会社の収入が増え、その一部が賃上げに回るのですから、賃上げ幅が値上げ幅を上回ることはあり得ません。賃上げ幅は値上げ幅の半分もあればよい方ではないでしょうか。即ち、5%値上げしたら賃上げは2.5%くらいが限度となります。これから分かるように、値上げ主導型の賃上げでは、物価の上昇による支出の増加が賃上げによる収入の増加を上回り、大部分の給与生活者の生活は苦しくなることになります。
それに値上げできるのは、市場占有率の高い大企業の商品が中心となります。多くの企業が参入し競争が激しい商品は値上げできません。ましてや生産力が低く供給力も乏しい多くの中小企業は値上げできないことが多いと思われます。その結果、値上げで賃上げできる企業は全体の2割くらいしかないと思われます。ただし、その2割の企業が動かす商品が全体の6割くらいになるので、生活への影響は広範囲になります。2割の大企業の社員は賃上げの恩恵を受けることになりますが、残りの8割の中小企業の社員は賃上げの恩恵を受けないことになります。しかし、全く恩恵がないわけではなく、大企業からの発注の増加などで中小企業の売上が増えるなどの恩恵は及んでいると考えられます。しかしそれで賃上げとはならず、多少の賃上げがあったとすれば、それは労働力不足による引き留め策としての賃上げの意味が大きいと思われます。
こう考えると、物価上昇主導型による賃上げ効果は、大企業に偏り、日本の多数の勤労者が属する中小企業では小さくなり、生活者の多くは大企業が値上げした商品の値上がりにより、却って生活が苦しくなっているのが実情だと思われます。
このように物価上昇主導型の賃上げは、大部分の生活者にとっては生活を益々苦しくするだけということになります。
それでも、曲りなりにアベノミクスで景気が良くなったのはなぜかと言うと、金利低下効果により、利息の支払い額が減ったことが大きいと考えられます。借入金の大きい不動産業や製造業ではこれが利益の増加として顕著に表れているはずです。また、一般に大企業の社員より中小企業の社員の方が生活ローンは多いと考えられ、その利払い減少で賃金は殆ど上がっていないにも関わらず、使えるお金は増加していると考えられます。この低金利は、住宅や車など欲しい物が手に入るようになり、好況感を生み出していると考えられます。
しかし、この間大企業で革新的製品が開発された訳でもなく、中小企業の生産性が上がった訳でもなく、多くの従業員の収入は増えていませんから、実体的にはアベノミクス前と何も変わっていないこととなります。
やはり本当の経済活況化のためには、技術革新や生産性向上が不可欠だったのです。これを欠いたアベノミクスは、1990年代の不動産バブルに対して、緩やかな低金利バブルと言えるかも知れません。低金利の結果、収入が細った銀行は、貯えを吐き出し、余力を失くしています。都市銀行では銀行のこれまでのビジネスモデルは崩壊したと考え、抜本的リストラに動き始めています。この動きは早晩地方銀行にも広がると予想されます。地方の場合、急激な人口減少に伴い存続しえない企業もたくさん生まれると予想され、地方銀行はこれらの企業の整理のためにも利益の確保が必要となります。その結果起きるのは、銀行が経営できる水準までの金利の引上げです。こうして低金利政策は維持できなくなり、金利は上昇に向かうと考えれます。その結果、賃金は上がらなくても低金利の恩恵を受けてきた多くの生活者は、上昇した商品価格だけが残り、生活は一挙に苦しくなると思われます。
不動産バブルでは、土地転がしで巨額の富を築いた不動産業者やその不動産業者に融資し支店の融資額を伸ばし出世した銀行員を作り出しました。しかし、一方では、バブル崩壊後に不動産会社を引き継いだ経営者や次にその支店を担当した銀行員は、資金繰りや回収に苦しむことになりました。アベノミクスの後遺症は、広く浅くしかし期間は長いものとなりそうです。