韓国の大統領府は文在寅法律事務所と考えればよい

韓国と日本の関係が急速に悪化しています。これは昨年10月31日に韓国の大法院(日本に最高裁判所に相当)がいわゆる徴用工問題で下した判決が原因となっています。徴用工問題は、第二次世界大戦中日本の統治下にあった朝鮮で日本企業の募集や徴用により労働した元労働者及びその遺族による訴訟問題です。大法院は新日本製鉄(現日本製鉄)に対し韓国人4人へ1人あたり1億ウォン(約1,000万円)の損害賠償を命じました。この問題について韓国政府は、1965年の日韓請求権協定で「解決済み」としてきましたが、大法院は、日韓請求権協定で個人の請求権は消滅していないとし、徴用工による日本企業への賠償請求を認めたのです。その結果、韓国政府は日韓請求権協定で当該賠償請求権は消滅したと認めているにも関わらず、司法の最高機関はこれを否定するという他国ではありえない事態が生じたのです。米国や欧州、日本では、国が外国と結んだ条約や協定などと国内法が衝突した場合、条約や協定などが優先するとされています。裁判所は、政府が交渉し、議会が承認した外国との約束を尊重しなければならないという訳です。

この結果、文政権は困ったことになります。日本政府は「どうするのか、解決策を示せ」と催促し、韓国政府が答えないことから協定にある第三国の仲裁を求めていますが、負ける可能性が高いことが分かっていることから韓国は同意しません。論理的には、日韓請求権協定の締結に伴い日本政府は韓国に無償300憶ドルの賠償金を支払っており、韓国政府がこの中から徴用工に補償を行なわず賠償問題を解決しなかったことが問題であり、韓国政府が支払うことにすればよいのですが、賠償金額が巨額となることから、韓国政府はこの決定ができないのです。その間にも徴用工は新日鉄の韓国合弁会社の株式を差し押さえ、支払いを迫っています。

そういう中で、7月4日、日本政府は韓国の半導体や有機EL企業が日本の企業に依存する半導体材料の輸出規制を実施しました。7月4日は参議院選挙の公示日当たることから、選挙向けの効果も狙ったものと思われます。

それに対する文大統領や政権幹部の発言を見ると文政権の実体が見えてきます。徴用工問題の仲裁への同意については、日本側の一方的な主張であり応じるつもりはないといい、輸出規制についてはWTO違反でありWTOに提訴すると息巻いています。更に、困るのは日本だと言って日本を脅しています。一方では、米国のトランプ大統領に仲裁を依頼しています。

文大統領は弁護士出身であり、国際的慣行の下では徴用工の日本企業に対する請求権は日韓請求権協定により消滅していることを良く理解しています。しかし、それを認めることは韓国の三権分立制度上許されません。そこで取り得ることとなれば、解決を引き延ばすことしかありません。先ずは検討するといい、その後日本と一緒に言い解決策を見つけようといい日本への抱き着きを図ります。日本はもちろん拒否し、協定に乗っ取った解決を求め、仲裁を求めます。仲裁となれば負ける可能性が高いので、韓国は受けられません。そこで諾否を答えずに引き伸ばしを図ります。これで徴用工の差し押さえ財産の換金までは引き伸ばせると思っていたと思いますが、7月4日に半導体材料の輸出規制という韓国経済に打撃を与える手を撃たれました。徴用工問題では、引き伸ばせば韓国に損害は生じなかったのですが、輸出規制の結果目に見える形で損害が生じます。これまでは徴用工問題で日本が対抗措置を取れば韓国としても対抗措置を取ると言っていましたので、直ぐに対抗措置を取るだろうと思っていましたが、全く対抗措置を取る様子がありません。不当な措置であり速やかに撤回すべきと言うばかりです。

これらのことから分かることは、文大統領は弁護士出身であり、その発想は法廷闘争から来ているということです。客観的には敗訴確実の被告の弁護人として精一杯抗弁している様子が伺われます。弁護士である文大統領にとっては、大法院判決は絶対的なものであり、逆らえるものではありません。そうなると中身のない抗弁を振り回すことになります。そして輸出規制のような経済的問題になると専門外であり、何のアイデアも出てきません。

この弁護士出身の文政権の様子を見て、日本の菅内閣時代の仙谷官房長官を思い出しました。当時菅内閣は、仙谷官房長官が動かしていると言われましたが、官邸は仙谷法律事務所と言われました。やることなすことが弁護士事務所のやり方なのです。その結果手堅いのですが、法理の檻の中にいるような堅苦しさを感じました。弁護士は、法理の囚人とも言え、法律の運用は得意なのですが、新しい枠組みを作るのは不得手です。こういう視点で文大統領を見るとその行動や発言が理解できます。