日産の業績悪化の要因はコストカットの緩み
7月25日、日産が2020年3月期第1四半期決算を発表しました。売上高は前年同期比12.7%減の2兆3,724億円、営業利益は同98.5%減の16億円だったということです。営業利益減少の要因は、原材料費などコストの上昇(約423億円)と北米・欧州を中心とした販売低迷(約605億円)としています。
販売台数を見ると、北米は前年同期比6.3%減の35万1千台、欧州は同16.3%減の13万5千台、日本は同2.6%減の12万6千台)、中国は同2.3%増の34万4千台となっています。この結果グローバル販売台数は123万1千台となり、前年同期比6.0%の減少となっています。世界の需要が6.8%減少していますので、販売台数では健闘したと言えます。営業利益減少への影響が大きいと言われる北米の販売台数の減少は6.3%とほぼ世界需要の落ち込み幅並みであり、日産の営業利益の減少の要因とすることはできないと考えられます。北米販売では、1代当たりの奨励金が約4,500ドルとトヨタの2倍と言われており、北米の販売会社が大幅な赤字に陥っていると考えられます。第1四半期においては、販売会社の在庫が約6万8千台減少したということですので、在庫を減らすことを優先し、安売りを続けたと思われます。もし奨励金を減らしていれば販売台数の減少はこんなものでは済まないはずです。
その結果、北米で奨励金を減らし安売りを抑制するのは、第2四半期からと思われ、北米の販売台数減少は第2四半期以降に顕在化すると思われます。自動車メーカーの場合、利益は出荷価格と製造コストの差額にあり、ここで十分な利益が確保されれば、販売会社の利益が赤字になっても構わないことになります。例えば北米の販売会社が1,000億円の赤字になっていたとしても、工場段階で北米の販売会社に出荷した車両で2,000億円の利益が確保されていれば、差し引き1000億円のプラスであり、こういう売り方もあるということです。ゴーン氏はこの方法を取ったものと思われます。製造原価を徹底的に落とし、工場で利益を確保し、その利益の範囲であれば販売会社は赤字でも売ってくれればよいわけです。もちろん工場も黒字で販売会社も黒字なのが理想ですが、それはトヨタのような商品力が充実しているメーカーでないと無理です。ホンダも前期決算では自動車部門は赤字だったと言われていますが、これは製造コストが高く、工場で十分な利益が確保できていないためだと思われます。日産はゴーン時代には強力なコストカットで工場で十分な利益を確保し、それが北米の赤字販売を可能としていたのですが、ゴーン追放後工場のコスト管理が緩くなり、工場で十分な利益が確保できなくなったため、北米の赤字販売が問題になったと思われます。これは製造・購買部門の責任を北米の赤字販売に転嫁しているとも言えます。購買部門は西川社長の出身部門であり、北米の販売部門はゴーン氏の責任だったことから、ゴーン氏追放を正当化するために、日産の業績悪化の責任を北米の販売部門に押し付けているとも取れます。
こう見て来ると、日産再建の肝は、製造コスト削減にあることが分かります。再度ゴーン氏がやって来てコストカッターと言われた時期に戻ることです。今回コスト削減策として海外工場を中心に1万2,500人の削減が発表されていますが、工場の閉鎖や本社間接要員の削減など抜本的なコスト削減策とはなっていません。自動車の世界的な販売台数の落ち込みはこれからが本番と思われ、これでは今後工場閉鎖や追加人員削減は必須であり、損益悪化の底が見えません。今期の営業利益16億円は、通常ベースでは100億円を超える赤字の所、販売会社への押し込みや開発費の繰り延べ、販促費の抑制などで作り出した数字と思われます
第2四半期以降には、工場の減損処理も予想され、第2四半期は営業赤字に転落し、今期損益は数千億円の赤字に転落すると予想するのは素直です。
西川社長は販売部門で指揮を執ったことはなく、増販で損益を立て直すのは無理です。やはり得意とする購買部門を中心とした製造コスト削減に大ナタを振るしかないと思われます。西川社長には、有価証券報告書虚偽記載で逮捕されたケリー容疑者が告発したSARの行使期限を操作した疑惑が解明されておらず、検察が西川社長を不起訴にしたのは不当とする申し立てが検察審査会になされています。ともにアウトになる可能性が高いと思われます。日産の指名委員会による西川社長解任の日は近いと思われます。