日産のおかしな350億円のゴーン損失認定
日産は、9月9日に行なわれた取締役会において、元会長カルロス・ゴーン氏(以下ゴーン)らの不正行為による損害額を約350億円と認定したとの報道です。
取締役会が認定したゴーンの不正行為は、
・取締役報酬開示義務違反
・役員退職慰労金打切り支給として支給される可能性のある金額の不正操作
・会社資産の私的流用等
・販売代理店に対する奨励金支払いに関する不適切な行為
となっており、これらの行為から日産に約350億円の損害が発生したことになります。
具体的な調査内容は公表されていないので、推定するしかないのですが、これまでに報道されている事実から考えるとあり得ない金額です。
先ず、「取締役報酬開示義務違反」とありますから、本来年間約20億円の報酬を約10億円と有価証券報告書に過少に記載して約92億円の損害を与えたと認定しているものと思われます。これはこれまで報道されてきた金額です。これはゴーンが退任後コンサル契約などの対価として受けとった場合の損害です。しかし、ゴーンはまだ受け取っていないのです。また、ゴーンと西川社長の間で結ばれた契約書があるという報道ですが、会社と取締役との間の取引は、取締役会の承認を得ないと有効にはなりません。西川社長がサインしていたということは、西川社長に取締役会の承認を取る責任が生じたものと思われます。もしこの契約が会社との関係でも有効になっていたとすれば、取締役会が承認していたことになります。取締役会が承認していたら、有価証券虚偽記載については承認した取締役にも責任があることになります。このような案件が取締役会に上がって来たら、普通の取締役なら承認しませんから、承認していないと思います。だから、この92億円については、日産には支払い義務はないし、日産は支払いません。従って日産の損害にはなりません。むしろ日産は92億円得をしていることになります。
2番目の「役員退職慰労金打ち切り支給として支給される可能性のある金額の不正操作」については、内容が想定できませんが、あくまでも可能性であり、損害は生じていないことになります。従って、損害に含めるのは不適切です。
3番目の「会社資産の私的流用」については、会社購入のマンションなどを私的に使用していたというものでしょうが、使用対価を払わせれば済む問題です。それに売却すればそんなに損害は出ないと言われていますので、損失としても大きな額にはならないはずです。
4番目の「販売代理店に対する奨励金支払いに関する不適切な行為」は、サウジアラビアなどの友人が経営する販売店に個人の借入金などの対価として過分の報奨金を支払ったという特別背任に問われている行為のことだと思います。もしこれが立証できるのなら、これは損害に含めてよいと思われます。しかし、アラビア市場の開拓は日産にとって重要なテーマだったとすれば、ここで使った金額全部を損害と認定するのは無理があります。損害と認定するとすれば金額の一部となります。それに報告は「不適切な行為」となっており「不正行為」となっていないので、西川社長らのSARと同じ程度の行為であり、不適切と考えられる金額を返還させれば済むものと考えられます。
そう考えると、最悪でもゴーンが日産に与えた損害は10~20億円程度にしかならないと考えられます。これくらいならゴーンに返還させればよいだけの話です。350億円などという金額は出てきません。もしこれだけの金額が損失だとすれば、他の取締役や監査役、監査法人が責任を果たしていなかったということになり、ゴーンと共に他の取締役や監査役、監査法人も損害賠償責任を負うことになります。
同日、西川社長が不適切な報酬を受け取っていたとして解任されましたが、西川社長については、これまでも責任を見逃されてきました。先ず、有価証券虚偽記載の対象の3年間については西川社長が有価証券報告書の提出責任者だったにもかかわらず、虚偽記載の責任を問われていません。また、ゴーンの報酬を退任後に払うための契約書にサインしていたにも関わらず、何ら責任を問われていません。このようにゴーンが犯罪を犯したとすれば、西川社長は共犯なのに全く責任を問われていないのです。さすがにSARによる報酬水増し受領では大目に見ることが出来なかったようです。
だから西川社長も逮捕すべきと言うのかというと、そんなことはありません。日産の今回の問題は、日産の社内で解決すべき問題であって、刑事事件にするような問題ではないのです。有価証券虚偽記載については罰金の問題であり、ゴーンが特別背任に問われている問題については、事実ならゴーンに返還させればよい問題です。ゴーン逮捕は、検察が司法取引制度を使って手柄を上げようとして犯した重大な過ちです。そして今回日産がまとめた約350億円の損失は、検察のゴーン逮捕を正当化するために日産が膨らませたものです。