大学の基礎研究は東大と京大に集中すればよい
10月9日、今年のノーベル化学賞を吉野彰旭化成名誉フェローが受賞することに決定しました。受賞対象の研究はリチウムイオン電池の開発です。リチウム電池と言えばパソコンを始め多くの携帯型電気機器などに搭載され、最近では電気自動車の基幹部品となっています。従ってリチウム電池を開発した吉野氏のノーベル賞受賞は時間の問題と言われていました。この点では、2014年に青色発光ダイオードを開発した中村修二氏に近いと思われます。
これにより日本出身のノーベル賞受賞者は28名となりましまた(日本出身で外国籍も含む)。これを出身大学別(学士段階)で見ると東大と京大が8名、名古屋大3名、その他1名が8校となっています。これを見ればノーベル賞受賞者の57.1%は東大と京大が占めることが分かります。東大と京大は、日本1位と2位の学力を誇る大学であり、ノーベル賞の受賞にはこの程度の学力が前提となることが分かります。東大卒業のノーベル賞受賞者の特徴は、物理学賞が多いこと(5名)です。物理学は突き詰めることが要求される学問であり、東大生は突き詰める頭脳が優秀であるためではないかと思われます。それに対して京大は、化学賞が多くなっています(3名)。化学は試行錯誤が必要な学問であり、京大生は頭脳に柔軟性があるのではないかと考えられます。
私は東京で仕事をしている際、日本のトップレベル研究者が集まる学界や研究発表会に多数参加しましたが、東大の研究者と京大の研究者の発表には大きな違いがありました。東大の研究者の発表は、米国や欧州の研究者としのぎを削っている分野で、データが豊富な発表が多いのに対し、京大の研究者の発表は、誰もやっていない分野の研究で、データも貧弱なものが多いのです。最初これを見て、やはり東大の研究者は凄いな、東大と京大には相当差があるな、と思ったものでした。しかし、だんだん両者の違いの原因が分かってきました。東大の研究者は、小さい時から比較1番の環境で育ってきたので、既に研究がなされている分野で1番を目指す研究であり、京大の研究者は、誰もやっていない分野、即ち競争者のいない分野を開拓する研究なのです。これが学力なら東大に負ける京大がノーベル賞受賞者数で東大と並ぶ原因と考えられます。京大の研究者の発表は、長い間小学生の理科の研究発表のような初歩的発表に留まり、決して華々しい内容にはなりません。何でも知っていて周りから頭がいいと褒められてきた東大卒の研究者には耐えられない時間が続くことになります。京大の研究者と東大の研究者にはこのような違いもあるように感じました。
いずれにしてもノーベル賞受賞には、東大および京大級の学力が必要なことは自明であり、逆に言うとそれ以下の大学の学力ではノーベル賞受賞は難しいことになります。現在大学の研究費が実用化に近い研究に重点的に配分され、基礎研究への配分が低下しており、今後日本人のノーベル賞受賞は減少すると言われています。ノーベル賞受賞は、日本人の優秀さを示し、日本を元気にすると同時に、そのための基礎研究は、日本の将来の産業の米としても重要です。今後人口減少の中で、科学研究費を大きく増やすことは不可能でしょうが、これまで多くの大学に少しずつ配分していた基礎研究費は、東大と京大の2校に全額配分した方が効果的と考えられます。そしてこの研究費の個別の配分については大学に任せ、外部からは一切干渉しないことが必要です。それは、基礎研究は事前の評価が難しく、ノーベル賞受賞者を多数出している大学に任せた方が一番当たる可能性が高いと考えられるからです。