総務省と通信業界の癒着を伺わせる電通副社長人事
電通は14日、2020年1月の持ち株会社体制への移行に伴う人事を発表しました。この中で注目されるのが、持ち株会社「電通グループ」の副社長に元総務事務次官で現電通取締役の桜井俊氏が就任することです。新聞報道では、アイドルグループ嵐のメンバー桜井翔さんの父親として関心を引いています。私が注目するのは、これは総務省と通信業界の癒着を伺わせる人事だからです。それは桜井氏の経歴を見れば分かります。桜井氏は、旧郵政省に入省後通信行政の中枢を歩いています。NTT民営化から関わり、今の携帯3社による家計収奪の仕組みを作った人です。携帯電波を割り当てられた3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)は、2019年3月期には営業収入約13兆円、営業利益約3兆円、営業利益率約20%という通信利権王国を作り上げました。同じようなライフラインを担う公益企業である電力9社が営業利益率5%であることを考えれば、携帯3社が公益企業の規範を逸脱していることは明確です。かってのサラ金並みに利益追求集団化しています。携帯3社の利益は、国民の財産である電波の割当を受けていることだけが利益の源泉であり、マイクロソフトやグーグルのように画期的技術やサービスを開発したわけではありません。従って公益企業としての規範に従い(コスト+適正利潤)をもって営業利益とすべきなのです。それが日本有数の家計収奪企業化しています。この状態は桜井氏が総務省幹部であった時代に作られたものです。言うなれば桜井氏は携帯3社による家計収奪システム作りを主導した総務官僚の中心人物です。
桜井氏は2016年6月に総務事務次官を退任しましたが、その後他の総務事務次官経験者とは異なる進路をとっています。多くの総務事務次官経験者は退任後総務省が主管する地方自治関係の団体の代表に就任しています。ところが桜井氏は、銀行顧問を経て2018年1月電通執行役員に就任しました。これをもって厳しい民間企業に身を投じたと書いた新聞をありましたが、とんでもありません。これは桜井氏の郵政省、総務省で通信行政に携わったキャリアから予定された天下りです。携帯3社にとっては恩人である桜井氏については、携帯3社自身が三顧の礼をもって役員に迎えたいところです。しかしこれでは事後収賄が疑われます。そこで携帯3社の宣伝部の役割を果たし、携帯3社から多額の広告費が流れ込む電通に席を用意したのです。これで今後とも携帯3社の利益のために働くことが出来ますし、電通にとっても利益になります。そして2019年6月取締役に就任し、今回の持ち株会社副社長昇格です。これは桜井氏が総務省時代に果たした携帯3社に対する貢献へのご褒美であると共に、総務省時代に桜井氏を事務次官に昇格させた高市総務大臣がこの9月再度総務大臣に就任したことが影響していると思われます。高市総務大臣は桜井事務次官就任を発表する記者会見で、「先般から何紙かの新聞に出ており「桜井翔さんの父」と小見出しが出ているものもあって、ちょっと気の毒に思いました。桜井翔さんが「桜井新事務次官の息子」であります。」と述べています。また桜井氏はどういう人と聞かれ、「お茶目な人」と述べていましたから、お気に入りであったと思われます。今回高市総務大臣が再登板となったのは、菅官房長官が唱えた「携帯電話料金の4割値下げ」が総務省の抵抗に会い遅々として進まないことから、総務大臣を3年勤め総務省の業務と組織を知り尽くした高市氏に白羽の矢が立ったものです。従って高市総務大臣としては、当然携帯料金の引き下げに全力を尽くします。これを削ぐために用意されたのが高市総務大臣のお気に入りである桜井氏の電通持ち株会社副社長就任と見ることができます。電通副社長という社会的には申し分ない地位に就いて、気心知れた高市総務大臣に接近し、携帯電話料金値下げの動きにブレーキをかける目論見と思われます。
官庁で事務次官まで務めた官僚が担当した業界(強いつながりがある業界)に天下ることは、本来なら禁止すべきところです。それは在職中に業界の利益のために働き、その報酬を退官後天下ってから受け取ることが行われるからです。政府自民党は官僚操縦のためにわざとこのことを容認しているようですが、良識ある官僚は「李下に冠を正さず」でそんなところに天下ったりしません。例えば金融庁の長官は銀行や銀行業界と繋がりが強い業界や団体に天下っていません。桜井氏の電通への天下りは、金融庁長官が全国銀行業協会の専務理事に就任したようなものです。マスコミは桜井氏の電通持ち株会社副社長就任を嵐の桜井翔さんの父親として取り上げるのではなく、こういう観点から取り上げるべきです。