熊本の県立高校付属中は意味が無い
今年熊本県の玉名高校付属中の競争率が1.06倍と前年の1.84倍から急落したことが話題になっています。この倍率だと、全員合格にしても辞退者が出て定員割れでしょう。同じく県立高校で付属中を持つ八代高校付属中は2.18倍、宇土高校付属中は1.53倍だそうですから、玉名高校付属中特有の現象かも知れません。玉名高校付属中も開設初年度は3.70倍あったそうですが、玉名高校が2019年の入試で定員割れしたことから、玉名高校へ無試験で進学できる魅力が無くなったことも影響していると言われています。
しかし、根本的原因は他にあると考えられます。中高一貫校の魅力は、学力の優秀な生徒を揃え、難関大学合格を目指した高度な授業を実施するところにありますが、熊本の県立高校付属中にはこの狙いが希薄です。中高一貫校を作るのなら、ライバルは東大合格者数上位の有名私立中高一貫校になります。例えば、開成、灘、麻布などであり、九州ではラサール、久留米大学付設、青雲などです。熊本の県立高校付属中はこれらとは似て非なるものです。単に中学から受験を経て高校に進学していたのを、小学校から受験を経て中学校に進学することにしただけです。付属中学では理数で先取り授業がなされるようですが、高校に進学したらまた同じ進捗レベルになってしまいます。今の有名私立中高一貫校は、この弊害を除くため、高校からの進学を廃止し始めています。こうでないと中高一貫教育のメリットは出せないはずです。また、有名私立中高一貫校は、教師が6年間持ち上がりで、かつ1校でずっと教える体制になっています。熊本の県立高校付属中の場合、教師は公務員であり約3年で転勤するシステムに組み込まれています。この期間を多少長くしているにしても、基本的に1校でずっと教えることはないため、教師の受験ノウハウが蓄積するはずがありません。
このように熊本の県立高校付属中学校は、ライバルである有名私立中高一貫校とは似ても似つかない実体になっているのです。上記3校からは中高一貫教育を受けた卒業生が出始めていますが、進学実績が上がったとは思えません。これでは生徒や父兄がこんな中高一貫校に行っても意味が無いと考えるのは当たり前です。今年は玉名高校付属中だけが低い競争率でしたが、今後は他の2校も同じ状況になると思われます。
公立学校の役割は、住民の子供に最低限の教育を施すことであって、どうしても公平な教育を重視することになります。その結果、能力差がある生徒を一緒くたにして真ん中の生徒に合わせた授業をすることになります。その結果、能力のある生徒の伸びが損なわれることになります。この弊害を是正するためにできたのが有名私立中高進学校です。もし公立の中高一貫校を作るのなら、この思想を取り入れる必要があります。例えば、熊本高校を中高一貫校として、私立中高一貫校に倣った6年間一貫教育を実施します。そうすれば有名私立中高一貫校に負けない県立の中高一貫校になると思われます。これ位のことをしないと、県立高校付属の中高一貫校を作っても効果は出せません。これに踏み込めないのなら、中高一貫教育は熊本市内の私立中高一貫校に任せ、家庭の経済的事情でこれらの中学校に進学できない生徒には給付型奨学金を支給し、私立中学校を実質無償化することが効果的です。東京都は高校無償化の対象を年収910万円以下の家庭まで拡大するそうですが、それよりも私立中学校を無償化した方が子供の才能を伸ばせます。何故なら、人間の能力および才能の見極めは、小学校から中学校に進学時にするのが一番適格と言われており、中学校から才能別教育を実施するのが重要だからです。有名私立中高一貫校からの難関大学進学者数がこれを証明していますし、野球やサッカー、ラグビーなどのスポーツでも私立中高一貫校が躍進しています。熊本県は、人口が約170万人と県の中では多いため、経済指標などを見ると中位に位置していますが、1人当たりで見る下位(40位台)になります。将来これを上位に持って行くには、県民1人1人の才能を徹底的に伸ばす教育を実施するしかありません。熊本県人は才能の宝庫です。例えば、女子プロゴルフで言えば、不動選手、平瀬選手、古閑選手、上田選手、有村選手などが生まれていますし、プロ野球では、川上選手、伊東選手、前田選手、秋山選手、村上選手などが出ています。今後は進学教育ばかりでなく、スポーツや芸術の分野でも子供の才能を伸ばしてやる教育体制が必要です。先ずはこれらの才能別のクラスを集めた中高一貫校(例えば大阪桐蔭や青森山田のような)が必要です。
*付属中高一貫教育の威力を見せるなら、熊本大学付属中学校に付属高校を付け、中高一貫教育体制にすることが考えられます。筑波大学や広島大学などが中高一貫教育体制を取っており、それなりに進学実績があります。国に要望してダメなら、県で熊本大学付属中学校生がそのまま進学する高校を設置し、実質的に中高一貫校化すればよいのです。せっかく優秀な中学生を集めて3年間教育してきたのに、ここでバラバラにするのはもったいないです。