人は給料に応じた仕事しかしない

以前会社員のとき、出資先のベンチャー企業の取締役(非常勤)に就任していたことがあります。そのベンチャー企業の業績が事業計画を大幅に下回っていたため、私は取締役会で「社長は責任をとって報酬を削減すべきではないか」と発言しました。業績が悪化したときの定石の言葉です。それに対して社長は「今の報酬は私がいた会社の部長より低いですから、それはちょっと。」と抵抗します。社長の年間報酬は約1,800万円でした。社長が元いた会社は製薬会社で報酬水準が高く、部長なら2,000万円以上は当然だったので、社長で1,800万円は安いという感覚だったようです。私としては、経営者になったのだから、会社の業績が悪ければ報酬が減ることを分からせる必要があると思って発言したものでした。

そんな中で社外取締役(1名)が「人は給料に応じた仕事しかしないから、報酬削減には反対だ。」と発言しました。その社外取締役は、社長が元いた会社の上司で副社長まで務めた人でした。しかも薬学博士で、大手企業4社の薬の研究所長や開発担当役員、その後国の研究プロジェクト代表を務めた大物(当時80歳くらい)。です。これにより削減しないことに決定しましましたが、私としては報酬の削減が第一の目的ではなく、事業計画に責任も持って貰うことが目的だったので、結末に異存はありませんでした。

ここで考えさせられたのがその社外取締役が言った「人は給料に応じた仕事しかしない」という言葉です。この社外取締役は大手企業で薬の開発担当役員の在職期間が長いので、その間の年間報酬は億を超えていたと思われます。そういう人がこの言葉を言うとやけに説得力があります。

当時私も同じようなことを感じていました。例えば商社は高給で知られていますが、それを維持するために社員は必死の努力をしています。ある商社では社内競争がし烈で、社内での怒鳴り合いの喧嘩は日常茶飯事のようです。賞与や昇格は稼いだ利益で決まる分かりやすい実力主義が徹底されています。このため稼いだ利益に応じて高い報酬を得るのは当然であり、働くモチベーションになっています。商社以外でも高い報酬で知られる会社は同じようなシステムテムです。従って、高い成果を期待するのなら、高い報酬を与え続けなればならないこととなります。その社員としては稼いでいるけれど、会社の事情で報酬を減らすようなことがあれば、稼いでいる社員のモチベーションが低下し、会社の業績の向上は難しくなります。このように報酬の削減は、会社の推進力を削ぐことになります。

こう考えると、会社全体としては給与水準が高くない会社でも、多く稼ぐ社員についてはそれに応じた報酬を出した方が会社の業績向上に繋がることになります。他の社員のやっかみもあるでしょうが、中にはその報酬の高い社員を目標にして頑張る社員が出てきます。その結果、できる社員に引っ張られて会社の業績は向上すると考えられます。

「人は給料に応じた仕事しかしない」のは事実であり、より多くの結果を期待するのなら、給料は成果にふさわしい額にする必要があります。