豊田社長とルロア副社長の報酬差が示す日本人経営者の実力

トヨタ自動車の2020年3月期において豊田章男社長の役員報酬が4億4,900万円なのに対し、ディディエ・ルロワ副社長(今年6月で退任)の役員報酬が12億3,900万円だったという報道です。ルロワ副社長と豊田社長の報酬は、3年連続でこのような水準にあるようです。ルロワ副社長の報酬額についてトヨタは、出身国(フランス)・地域(欧州)の役員報酬を考慮したためと言っています。

ルロワ副社長は1982年技術者としてルノーに入社し、あの日産元会長のゴーンの下でも働いた人です。ルノーでは工場勤務が多く、30代で工場長に抜擢され、将来のルノーの幹部候補だったようです。それが1998年トヨタがフランスに製造子会社を設立した際にスカウトされ、その子会社の取締役副社長に就任します。その後その子会社社長を経て、2007年にトヨタ本体の常務に就任、そして欧州トヨタの責任者を務めます。2012年にはトヨタ専務、2015年には同副社長に就任し、実質NO.2の立場にあったようです。これを見ると世界の自動車会社からスカウトの手が伸びて当然であり、そのためトヨタは豊田社長を遥かに上回る報酬を提示して引き留めを図ったようです。それでもゴーン元日産会長は日産とルノーで約20億円の報酬を得ており、日産・ルノーを利益で遥かに上回るトヨタの副社長の報酬としては、ゴーン元会長並みの約20億円でも良かったと思われます。

日本では武田薬品のウェバー社長(フランス)の報酬が約20億円で、2020年3月期において上場企業の社長の報酬額としては最高額だそうです。武田薬品の2020年3月期の営業利益は約1,004億円(シャイアー買収のため経常利益は赤字)であり、トヨタのそれは2兆4,428億円です。これを考えれば、豊田社長の報酬は100億円を超えていてもおかしくありません。

この外国人の報酬の高さを出身国や勤務地域の役員報酬水準で説明するのは、説得力が無いし、情けないと思います。役員報酬は会社の利益や役員の貢献度に基づき決定するものであり、出身国の役員報酬水準で決まるものではありません。日本でも大きな利益をもたらした会社の社長は、フランスや米国並みの報酬を得るのは当然だと思われます。2兆円を超える営業利益を出したトヨタの社長が4億4,900万円ですから、これに遥かに及ばない利益に留まる他社の社長の報酬はこれを上回れません。豊田社長の報酬が日本の上場企業の社長報酬にキャップを嵌めているということができます。その結果他の役人の報酬も低く抑えられ、それ以下に決まる社員の賃金も抑えられます。即ち、豊田社長の報酬が日本企業の従業員の賃金水準を抑えているとも言えます。

もし豊田社長の報酬が利益に応じ100億円になれば、日本の上場企業の社長報酬は堰を切ったように上がると予想されます。そして他の役員の報酬が上がり、それに連れ従業員の賃金も上がります。豊田社長が会社の業績は役員・従業員みんなで作ったものだから自分が多額の報酬を得るのは従業員に悪いと思うのなら、貰った報酬の大部分を従業員団体に寄付すればよいのです。

IMD(国際経営開発研究所)というビジネススクールが経営者の国際評価を行っていますが、日本の経営者は有能性において対象63カ国中58位となっています。

豊田社長の報酬がルロア副社長の約3分の1であることは、IMDにおける日本人経営者の評価を反映した結果にも思えます。そしてこの結果を豊田社長が認めていることになります。これは日本一の大企業であり、世界的にも押しも押されぬ大企業であるトヨタの社長としては恥ずかしいことだと思います。やはり豊田社長には世界的企業の社長にふさわしい金額の報酬をとって欲しいと思います。それが日本の経営者のレベルを引き上げることに繋がります。

(尚、トヨタのルロワ元副社長は日産を再建できる唯一の人物であり、早期に日産社長に就任することが望まれます。)