携帯料金を値下げすれば5G設備投資が遅れると言うのは嘘

菅首相の携帯料金4割値下げ方針を受けて、最近マスコミでは、今後携帯料金がどうなるか、携帯3社がどのように対応するかについての記事や報道が増えています。その中で担当記者やIT専門家などが、値下げすれば5Gの設備投資が遅れ、日本は5Gで世界に後れをとることになると値下げを牽制する発言が見られますが、これは嘘です。これらの担当記者やIT専門記者は、携帯電話の業界人であり、携帯料金が下がれば携帯3社の利益が下がり、自分が受ける恩恵が小さくなることから、値下げを牽制する発言を強めているのです。

携帯料金を4割値下げしても5Gの設備投資には影響ありません。それは4割値下げしてやっと携帯3社の利益は電力業界並み(営業利益率5%)になるのであり、その利益は設備投資の費用(減価償却費)を差し引いた後の数字だからです。即ち、5Gの設備投資をちゃんとした後で5%程度の営業利益は出せるということです。これまでは、設備投資をした後約20%の営業利益が出ていたのです。例えばドコモの2019年度の決算を見ると、営業収益4兆6,513億円、営業利益8,547億円ですが、営業利益は減価償却費5,808億円を差し引いた後の数字です。今後は、5Gの設備投資が増えますが4Gの設備投資が減ますので、トータルの設備投資は若干増えますが、期間配分される減価償却費レベルではそう大きな変化はないと考えられます。従って、営業利益率が5%になっても5Gの設備投資は問題なく続けられます。また、減価償却費は費用に計上されますが、過去の設備投資を期間配分したものなので、現金は出て行きません。即ち、ドコモで見ると減価償却費5,808億円は社内に残り、次の5Gの設備投資に使われます。ドコモの2019年度の設備投資額は5,728億円ですから、減価償却費の範囲内で行われています。5Gの設備投資が足りなくなるとすれば営業赤字になる場合です。

減価償却費にその期の純利益がプラスされた数字が、会社が年間の設備投資に使える現金となりますから、携帯3社には5Gの設備投資額は十分あります。ドコモの場合、2019年度の減価償却費を含む余剰資金は年間7,986億円となります。

携帯3社の今の利益は、多数の販売代理店費用や頻繁に見かけるテレビ広告費などに多額の費用かけた後の数字であり、これらを合理化すれば5兆円、6兆円の営業利益となると考えられます。従って、携帯料金を4割値下げ(3社の営業収益14兆円×0.4=5.6兆円)しても5%程度の営業利益は出せます。値下げを求めているのは、通信サービスであり、携帯3社は、通信に付随した決済などのサービスで利益を上げることになります。KDDIやソフトバンクは既にその方向に進んでいます。

それに携帯3社は、これまで営業利益率20%という状態を長い間続け、社内に利益を貯め込んでいます。ドコモで言えば5兆2,500億円の自己資本があり、自己資本率は69.7%です。即ち、5Gの設備投資は十分に貯えているということです。ソフトバンクG(SBG)の場合、数年前まで携帯電話事業を内部に抱え、その有り余る現金を海外でのM&Aや投資に使いました。英国アーム3.3兆円、米国スプリント2.4兆円などです。これらは携帯電話料金で吸い上げた家計の資金です。その後携帯電話事業はSBGから分離しソフトバンクとして株式公開しましたので、それまでの利益は現在のソフトバンクには留保されていません。従ってソフトバンクの自己資本はその分少なくなっています(自己資本1兆5億円、自己資本比率10.2%)。

これらから携帯料金を下げれば5Gの設備投資が遅れ、国民は被害を受けると言うのは嘘であることが分かると思います。